科学の眼を持つ異才のイラストレーター
菊谷 詩子

Venus Talk

サイエンス・イラストレーター 菊谷詩子

科学書や教科書、図鑑の古代生物や動物のイラスト。
サイエンス・イラストレーターの菊谷詩子さんは
最新の科学研究に基づいた恐竜の姿かたちを復元し、
哺乳類や鳥類の姿を存在感あふれる独特の筆致で描く。
そんな特殊なイラストを描く道を選んだきっかけは?
仕事のこだわりは? 菊谷さんの素顔と作品づくりに迫る。

インタビューを行ったCoffee House Shakerの外観。菊谷さんのお気に入り。

動物の皮膚の感触や体毛一本一本のしなやかさまで伝わってくるリアルなイラスト。最新の研究から浮かび上がってきた恐竜の復元図。サイエンス・イラストレーターの菊谷詩子さんの作品を教科書や図鑑、展覧会の図録などで目にしたことのある人も多いだろう。
「大学院在学中、米国にサイエンス・イラストレーションという分野があり、その養成コースがあることを知りました。専攻していた生物学を生かしつつ、憧れだった美術にも関われる道を見つけ、人生に光が差したようでした」
相談した恩師から「本当にやりたいと思えばできる」と背中を押され渡米を決意、修業を積んだ。
サイエンス・イラストは、科学的な内容を正確に描くことが要求される。そのため、自ら文献や資料を集めることも多い。また、研究者とやりとりを重ねて、ミリ単位の修正を施したり、海外に取材旅行へ出かけることもある。気の遠くなるような時間と労力を下調べに費やす菊谷さん。表現方法にも、とことんこだわっている。
「油彩、水彩、コンピューターグラフィックなど、様々な方法で描きますが、一番楽しいのは彩色の時。スポンジや塩、アルコールなどを用いてテクスチャー(質感)を工夫するのも好きです」
締め切りがギリギリになっても、自分が納得するまで、何度も描き直す。その強いこだわりが描かれる生き物に命を吹き込む。
「描く時は、理性を働かせながら、同時に感性も解放する必要があります。バランスに気を付けながら、生き物の存在感や、その場の空気感を伝えたいと思います」
児童向けの絵本を丸ごと手掛けてみたいという菊谷さん。どんな「命のあり様」を見せてくれるのか、次回作が楽しみである。
撮影協力/Coffee House Shaker

取材・文/ひだい ますみ 写真/竹見 脩吾

iPad Pro (タブレット型コンピューター)を使用して描いた、恐竜の復元図。恐竜の研究は近年、目覚ましく進んでおり、体表や体色についても次第にわかってきている。
月刊誌『たくさんのふしぎ』の挿絵。野生のサルの様子とその森を描いた圧倒的なリアリティは、マダガスカル取材の賜物。
最新刊である絵本『たくさんのふしぎ』(福音館書店)。「ロシアの挿絵画家イワン・ビリービンからヒントを得て、ページデザインを工夫しました」と菊谷さん。

PROFILE

サイエンス・イラストレーター 菊谷詩子

きくたに うたこ
神奈川県生まれ。東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修士課程修了後、米国カリフォルニア大学サンタクルーズ校へ留学。ニューヨークのアメリカ自然史博物館でのインターンを経て、米国で活動。2001年からは日本で、教科書や図鑑、博物館の展示などのイラストを制作。2002年、ボローニャ国際絵本原画展(ノンフィクション部門)入選。2010年、絵本『いぬのさんぽ』(福音館書店)を出版。