信頼の技術とデザインで卓球界に新風を
株式会社三英

匠の新世紀

株式会社三英
千葉県流山市

リオデジャネイロオリンピックでも使用された「infinity」は、プロダクトデザイナーの澄川伸一さんのデザイン。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックが近づいてきた。
男女ともにメダルの可能性の高い競技として注目の卓球競技に卓球台を提供する株式会社三英。
日本の卓球台シェアで約75%を超える同社にその思いを聞いた。

品質の高さでメダル獲得をサポート

株式会社三英 経営企画室顧問 栗本典之さん

2016年に開催されたリオデジャネイロオリンピックでは、卓球男子シングルスで水谷隼選手が銅メダルを獲得したほか、男子団体や女子団体もそれぞれ銀、銅を獲得して話題となったが、この卓球競技でもう1つ衆目を集めたのが競技で使用された、脚のデザインが印象的な日本製の卓球台だった。
さらに、シングルス銅メダルの水谷選手が「メダルをとれたのは、あの台のおかげ」と語ったとの報道もあった。
この卓球台「infinity(インフィニティー)」をつくったのが株式会社三英。日本で約75%のシェアを持つ卓球台メーカーの老舗だ。この台の秘密について、同社経営企画室顧問の栗本典之さんは、次のように語る。
「卓球台のサイズは国際規格で決まっているのですが、さらに天板の反りが3mm以内と決まっています。それだけでなく、ボールのバウンドについても細かくスペックが決まっているんです。弊社の卓球台はこうした厳しい条件を高いレベルでクリアしています」
他社の卓球台の場合、脚部の取り付け部分などでバウンドが変わることがあり、そこを狙って打つ選手もいるのだという。ところが三英の卓球台では、あらゆる部分でバウンドが均一になるように製造されている。さらに、選手に直接影響してくる天板では、デザイン性や安全性はもとより、バウンド性能、バウンドの音、摩擦、光沢などにこだわっている。
「現代の卓球では、ボールの回転とスピードが鍵になります。日本選手たちは三英の卓球台ならば、ボールがどう弾むか、どのくらいの回転をかけるとどのくらい曲がるかという台の特徴に慣れていたのではないかと思います」
三英が天板の品質にこだわってきたのには、会社の成り立ちにも大きな理由がある。三英の前身は、1940年(昭和15年)に東京・上野で創業した松田材木店。卓球台を製造していた木工所に材料を卸していたが、木製の天板は経年により反ったり割れたりすることから、「経年劣化しない材料はないか」と相談されていた。そこで反りの少ない合板を提案。しかし、価格の問題で受け入れてもらえなかったことから、自社で製造するようになった。その後、卓球台を販売するために62年(昭和37年)、三英商会(現在の三英)が創立された。三英はその後も、品質のよい天板の開発に力を入れ、今ではオリンピックの公式卓球台に採用される、世界最高品質の卓球台をつくりあげたのだ。

リオオリンピック・パラリンピックで脚光を浴びた三英の卓球台「infinity」。
一般的な卓球台には、金属の脚部が使用されている。

斬新なデザインで世界へ羽ばたけ!

国内では約75%という卓球台のシェアを持つ三英だが、世界でのシェアは大きいとは言えない。そこで同社は2011年、オリンピックで採用されることを目指し、世界中に認知されるような、これまでにないデザインの卓球台の開発に着手した。その際に、材木店だった初心にかえり、「脚部は木製で」というコンセプトは既にあったと栗本さんは語る。
デザインは、ソニーのウォークマンなどで知られるプロダクトデザイナーの澄川伸一さんに依頼。その結果、澄川さんから出てきたのが「X」のような脚部の形が印象的な「インフィニティー」のデザインだった。
これまでにない斬新なデザインだったが、実際にデザイン通りにつくってみると、木製の脚部がスプリングのように反発し、振動が止まらない。そこで合板を使ったり、形を変更するなど試行錯誤を繰り返した。その過程で、合板を曲げる技術で世界的に有名な株式会社天童木工(山形県)の協力を得て、大きなカーブの形状はそのままに、振動がなく強靱な脚部をつくりあげることに成功した。
「リオオリンピックの後には、テレビ局からの依頼で何度も『インフィニティー』を貸し出しました」
反響は大きかった。だが、1台100万円を超える(オープン価格)高級品だけに、飛ぶように売れるわけではない。
「おもしろいのは、高級旅館や家庭のリビングなど、これまで卓球台が似合わないと思われた場所に置いても違和感がないことです」
そういう意味では、これまでにない新しい市場が生まれたという栗本さん。
「それに『リオオリンピックで使われた卓球台をつくっている』と言うと、営業先での対応が違います。そういう会社なら安心ということで、民間でも公的機関でもお客様からの信頼感が格段にアップしました」
開発にかかったコストを考えると、「インフィニティー」の売り上げだけでは足りないが、それに優る効果があったと栗本さんは言う。
2020年の東京オリンピックでも同社の卓球台が採用されることが決まった。「MOTIF(モティーフ)」と名付けられた新製品は「インフィニティー」以上にインパクトのある製品だという(デザインは2019年秋ごろ発表予定)。その画期的デザインと、それを使う日本代表選手たちのオリンピックでの活躍に期待したい。

積層材を貼り合わせて、天板をつくる様子。
天板の仕上げは、1枚1枚手作業で行われる。
紫外線を照射し、天板の下地を硬化させる。
天板の塗装。同社の天板はレジュブルーという独特のカラー。
ボールをバウンドさせて、天板の精度を検査。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉(栗本典之さんの顔写真のみ)、他は三英、および卓球王国の提供

PROFILE

株式会社三英

卓球台などのスポーツ用具と、公園などで使用される遊具のメーカー。オリンピックの公式用具サプライヤーは1992年バルセロナ大会以来、リオデジャネイロ大会で2度目。東京大会でのサプライヤーも決定している。