< ツアー概要 >
- 日程:2022年8月30日(火)- 8月31日(水)
- 参加者数:学生15人
- 場所:オンラインにて開催
大学生向け 水力編@奥只見ツアー レポート
地球規模のエネルギー問題、気候変動等により、問題意識を高めてSDGsを学ぶ学生が増えています。J-POWER「エコ×エネ体験ツアー水力学生編@オンライン~エネルギー・環境×SDGsを学び合う!~」(2022年8月30日・31日)は、エネルギーと自然の関係を学び、社会課題の解決に向けてディスカッションから行動化を目指すプログラムです。日本の電力を支えるJ-POWERが、社会貢献活動の一環として2007年より開催している同ツアーは、昨年に続き今年もオンラインで開催され、世界が抱える課題のために「何か行動を起こしたい」と思い立ち応募した学生が日本各地から集まりました。学生たちひとりひとりがエコ(環境)、エネ(エネルギー)とSDGsについて考え、さまざまな気付きを得て行動に踏み出すまでの2日間のようすをレポートします。
エコ×エネ体験プロジェクトのリーダー、J-POWERの「シゲさん」のはじまりの挨拶では、エコ×エネ体験プロジェクトが生まれた経緯や専門性の異なるパートナーと共にプロジェクトを運営していること、このツアーの目的が紹介されました。
アイスブレイクなどで緊張をほぐしたあとは、岐阜県の御母衣発電所とダムのバーチャル映像見学です。御母衣ダムは岐阜県北部を水源とした富山湾に流れる庄川をせき止めて作られました。岐阜県は森林面積率が79%と高知県に次いで全国2位、冬は降雪も多く森の保水力もあるため、水力発電所に適した場所です。
東海北陸自動車道ひるがの高原サービスエリアの近くに「分水嶺(ぶんすいれい)」と呼ばれる水の流れの境界線があり、分水嶺の南側は長良川、河口付近では木曽川となって太平洋に流れ、北側は庄川となって日本海に流れ込んでいます。
御母衣ダムの中心部は遮水壁と呼ばれる粘土で水が漏れるのを防止しています。その上には小さな岩石、表面部には大きな岩石が使われ、遮水壁の粘土が流れ出るのを防ぐ仕組みとなっています。
御母衣ダムのある場所には、かつて荘川村中野地区、合掌造りの集落と穀倉地帯が広がっていました。電源開発の高碕初代総裁が水没する樹齢400年の立派な桜の木を見て移植を指示。その2本の桜は荘川桜と呼ばれ、住民の心の故郷にもなっています。
ここでJ-POWERグループの元社員で工学博士(九州工業大学)である「ドクター」による発電のしくみを知る実験がありました。
交流電気の基本を学んだ後は、馴染み深いフレミングの法則が紹介されました。左手はモーターの法則、右手は発電の法則で、どちらの手も中指は電流、人差し指は磁界、親指は力を示しています。続けてドクターのラップに合わせてわかりやすく法則をダンスで覚えました。「おのの」からは電気の速さは1秒間で地球を7回半も回る光と同じで、電気は貯められない。今、使っているこの瞬間の電気は、今、この瞬間に作られている。電気を作って届けてくれる人がいて私たちは電気を使えると解説が加えられました。
続いてはJ-POWERの若手社員、御母衣電力所の尾﨑巧さんと中部支店の木村渓子さんの2名とリモートで交流する時間です。尾﨑さんは技術系(土木職)として6年前J-POWERに入社。入社後すぐに北海道に赴任し、2年前の4月に中部支店管内の御母衣電力所に配属されました。入社のきっかけは、富山に遊びに行った際にその道中で初めて御母衣ダムを見たこと。J-POWERを知り興味をもち、その後インターンで御母衣電力所に。その時に食べたエビフライがおいしくて入社を決意したといいます。今のやりがいは労働後の給与明細とお子さんの寝顔を見ることと話しました。
木村さんは事務系として入社して2年目。現在、中部支店業務グループで経理業務を担当し、御母衣電力所を含む中部支店管内の予算や固定資産の管理に従事しています。入社のきっかけは、生活の基盤を支えられること、事業規模が大きく多様な業務に携われて事務系でも挑戦できる環境、積極的に海外事業を展開していること。経理面から技術職をサポートする毎日には新しい発見があり、規模の大きな仕事もあるのでやりがいを感じていると話してくれました。
学生からお二人への質問タイム。学生時代に何を学んだかとの問いに、尾﨑さんは高等専門学校で土木系、木村さんは大学でタイ語を学んだと回答。木村さんがJ-POWERに入社を決意した理由のひとつにタイに発電所があることもあげられるとのことでした。また御母衣ダムの耐用年数に関する質問に対しては、尾﨑さんは建設から60年以上経つ御母衣ダムでは10年といった長期計画で修繕を進め、どう修繕するかを自分たちで考えながら取り組んでいると話しました。木村さんは技術職の方たちとのやり取りから、専門知識の豊富さや仕事への誇りを感じたというエピソードも教えてくれました。
最後は学生へのメッセージ。「今はコロナ禍で自粛、自粛の日々だと思いますが、学生時代はいろいろな友達と遊びに行って、いろいろなものを見ることがとても大事だと思います。できる限り遊んでください」(尾﨑さん)。「社会人は大変そうだと思うかもしれませんが、入社してみると仕事は毎日楽しいです。そこは心配せず社会人生活に期待を膨らませて頑張ってほしいと思います」(木村さん)。
次は奥只見ダム・発電所へ。東京から新幹線で1時間半の新潟県南魚沼市にあるJR浦佐駅から車で向かいます。奥只見は山の奥にあり、道中も雪国ならではの工夫が見られます。信号機は雪が積もって車に落下する危険性から、横ではなく縦並びとなっています。また道路には消雪パイプ、家屋や建物の土台や玄関は雪に埋まらない高い位置にあります。
奥只見観光の佐藤氏が現地からライブ中継。奥只見ダムはコンクリートの重力式のダムで長さが480m、高さは157mとビルの40階ほどの高さです。地下の発電所で作られた電気は都心まで送られています。
奥只見湖の遊覧船で行くことができる銀山平の森の案内は、キープ協会の「ぱりんこ」が務めました。
「葉っぱっぱじゃんけん」へ。学生たちは事前に葉を3枚ほど近所で探して用意。キープ協会のスタッフがお題を出し、葉の特徴をお互いが比べました。
森へ戻り、白い木肌が特徴のブナの森へ。ブナの木は冷たく気持ちが良いといいます。葉を触るとすべすべしており、真ん中が少しくぼんだお椀型で雨を受け止めるのに良い形です。ブナの実は栄養があり森の生き物の大事な食料となっています。
続いてこの豊かな森と水力発電がつながる原理をドクターの実験で解き明かしていきました。
森に見立てた箱にグラウンドの土や落ち葉、ミミズ、ムカデ、微生物、きのこ、トビムシなどの生き物、水を入れました。それらの働きでグラウンドの土は丸い形の森の土(団粒)に変化します。別々のペットボトルで作った透水試験装置に、森の土とグラウンドの土を同じ量だけセッティングし、それぞれに雨に見立てた水を入れて、水の染み込む速度を確かめました。
水力発電の弱点は、電気が必要な時にはすぐに起こせますが、水がなくなると電気を起こせないことです。奥只見ダムは水力発電では日本最大規模の56万キロワットの発電能力がありますが、それは一般的な火力発電のおよそ半分です。満杯の水をどんどん使ってフルパワーで発電すれば、およそ2週間程度しかもたないので、水をためながら必要な時に発電することが重要です。
次はJ-POWERが取り組む4つの事例をシゲさんが紹介しました。SDGsの17の目標のうち「7.エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「11.住み続けられるまちづくりを」「13.気候変動に具体的な対策を」の3つに関わる事例は、戦後復興・高度成長で急増した電力需要に応えてきたJ-POWERの社史をかたどる記録でもあります。
シゲさんは電源地域の人たちと電力消費地の人は違う人であることに留意すること、すべてを満足させる完璧な発電方法はないため上手く組み合わせることが重要であるとしました。またSDGsの17の目標にも触れ、エネルギーとさまざまな社会課題がつながっていることにも言及し講義を締めくくりました。
続いては山梨県北杜市清里のキープ協会で自然と関わる仕事に携わる「ラビット」の「環境教育概論」です。
またラビットはSDGsを良い合言葉と評価しながらも、もっとも恐れるべきは「無関心」だと指摘しました。そして「無関心」を抑止するには、子供たちだけでなく全世代に「感受性・想像力・複眼的思考」を養うことが重要であると説きました。
行動化への具体的なアプローチとして、ドクターが自身の体験を事例として紹介しました。
ドクターから学生には、大学は自らが探求力と創造力を磨く場であるが、与えられたことを待つだけになってはいないかという投げかけがありました。そしてキャリアを形成するには、専門知識を得ながら、いろいろな知見も獲得していき、専門性の近いところを埋めていくといった考え方が紹介されました。
3人の専門家からのレクチャーのあとは、行動化に向けてまずは「持続可能な社会」を自分の言葉で「●●社会」に言い換えました。その学生の言葉からスタッフが翌日のディスカッションでグループに分かれるためのキーワードを作っていきます。その後の「ひとり一言タイム」では学生が自己紹介して1日目は終了しました。日程終了後も交流会が開催され、スタッフと学生、学生同士の対話は続きました。
1日目の終わりに3人の学生に
話を聞きました!
「自分の研究で世界が変わるという気持ちで勉学に励みたい」りほさん
幼いころは図書館で図鑑やいろんな本を読むのが好きでしたが、なぜか高校で国語が嫌いになり受験では理系を選びました。研究室の先輩が以前、エコ×エネ体験ツアーに参加して、とても良いと勧められて参加しました。今日はシゲさんの4つの事例に感動しました。科学者は技術的なことを周りの人に理解してもらい、当事者や住民の方のことを考えて自然を守りながら開発を進めることが大切だとわかりました。今後は卒論をしっかりとまとめて、自分の研究で世界が変わるという明るい気持ちで勉学に励みたいと思います。
「これまで学んだことを修士論文に集約したい」たかさん
環境分野はこれから必要と考えて廃棄物工学に進み、大学院では建築廃材の木質バイオマス発電の燃焼炉の研究をしています。2年前もエコ×エネ体験ツアー火力編に参加し、「エネルギー大臣になろう!」(火力編でプレイしたカードゲーム)を大学で開催させてもらいました。水力編にはエネルギーをもっと知りたいと考えて参加しました。今日はドクターから専門性の広げ方の話を聞き、これまでいろいろとやってきて良かったと思えました。またSDGsではいろいろな目標同士が関わり合っていると知れて良かったです。これからは今まで学んできたことを修士論文で集約できたらと思います。
「科学コミュニケーターを目指したい」えいみーさん」
東日本大震災で地震に、また防災館で土砂災害やダム、水に興味をもち、今は地球科学を学んでいます。今回は友人の紹介でツアーに参加しましたが、大学の次世代社会研究センターでカーボンニュートラルを広める活動をしているので電力の知識が欲しいと思いました。水力発電の実験では、仕組みや自然とエネルギーのかかわりが一連の流れで理解できました。また言葉が通じなくても熱意をもって伝えることが大事だとわかりました。これからは自分が発信源になれるよう科学コミュニケーターを目指したいと思います。