石見神楽の面作り(島根県石見地方)
小島 なお

「音のソノリティ」を詠む

幾層に重ねる和紙に幾人の神の顔やがてたったひとりの

歌人 小島 なお

コッコッコッ。パラパラ。コッカッカッ。粘土の型を木槌で打ち壊す音。型が崩れると響きが軽やかに変わる。

伝統芸能「石見神楽(いわみかぐら)」が根付く島根県石見地方。元々は秋の収穫期に自然や神への感謝を表す神事として伝承されてきた。日本神話を題材に豪華絢爛な衣裳と表情豊かな面を身につけて舞う。激しい動きに耐えるため、面はいつしか木製ではなく和紙(石州半紙(せきしゅうばんし))でつくられるように。型に和紙を貼っては乾燥を繰り返し、20~30枚を重ねて貼ることで完成するという。

薄く伸ばした和紙を面に一枚一枚重ねるたびに、少しずつ異なる表情が現れる。幾人の神の面影を宿しながらでき上がった面は、神楽によってひとときこの世の肉体を得ることで、たった一人の神の姿となって舞ってみせるのだろう。

※「音のソノリティ」第1003回放映「石見神楽の面作り」を観て詠んでいただいたものです。

石見神楽の起源は定かではなく、近世以前とされるが、明治政府が神職の演舞を禁止したため、民俗芸能として伝承された。(写真:イメージマート)

PROFILE

こじま なお

東京都出身。2004年、角川短歌賞受賞。2007年、第一歌集『乱反射』により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2020年4月、第三歌集『展開図』刊行。居合道三段。

音のソノリティ 世界でたった一つの音

J-POWER は、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。

日本テレビ系列 毎週日曜日 20 :54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 22 : 27 ~ (再放送)