One cannot think well, love well, sleep well, if one has not dined well.――ヴァージニア・ウルフ『A Room of One's Own(自分ひとりの部屋)』より
瀧羽 麻子
Power Of Words 私の好きな言葉
小説家 瀧羽 麻子
農業に関わる女性を巡る短編小説集『女神のサラダ』、姉妹間の複雑な心情を描く『ふたり姉妹』などで人気の小説家・瀧羽麻子さん。最近読んだ上記の言葉が気になると言う。
「20世紀モダニズム文学の主要な作家の一人である、英国のヴァージニア・ウルフのエッセイに登場する言葉です。『考える(think)』、『愛する(love)』、『眠る(sleep)』という3つの言葉はとてもシンプルかつ普遍的。誰の人生にとっても大切な、根本的なものです。ウルフはよくよく考え抜いた結果、この3つを選んだのではないかと感じます」
「きちんと食べなければ、しっかり考えることも、人を愛することも、ぐっすり眠ることもできない」。確かに、悪いニュースや情報にとらわれ悲観的な思いに駆られると、食欲がなくなる。それを放置すれば、心身の疲労が増し、人はさらに不安定になってしまう。だからこそ、コロナ禍で不安が募る世の中においても、きちんと食事をして、健やかに生きようとする姿勢は重要だろう。
「若い時はあまり意識しませんでしたが、年を重ねてくると、『健やかに生きること』がいかに貴重なことかわかってきた気がします。もともと食べることは好きなので、しっかり食べて、しっかり考えて小説を書いていこうと思います」
仕事はもちろん、プライベートなメールでさえも、送信前に一呼吸おいてゆっくり言葉を推敲するなど「じっくり考える時間が必要なタイプ」という瀧羽さん。丹念に「考える」ためにも、食事をおろそかにはできない。
今日は、そばをたぐろうか。旬を迎えたみずみずしい夏野菜のサラダもおいしそうだ……。体の声に耳を澄まして食事を摂れば、心にも体にも力が漲る。ウルフの言う通り、充実した1日、ひいては満足の人生を送れるに違いない。
取材・文/ひだい ますみ
PROFILE
小説家 瀧羽 麻子
たきわ・あさこ
1981年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。2007年、『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞を受賞し、デビュー。2019年、『たまねぎとはちみつ』(偕成社)で第66回産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。『左京区桃栗坂上ル』(小学館)、『ありえないほどうるさいオルゴール店』(幻冬舎)、『ふたり姉妹』(祥伝社)、『女神のサラダ』(光文社)など著書多数。