新型コロナウイルスがあぶり出した日本の問題点
寺島 実郎
Global Headline
5月25日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する緊急事態宣言が解除された。今回は、このコロナ禍によって、見えてきた日本の問題点について確認しておきたい。
まず、これからは「ウイルスとの共生」の時代であることを肝に銘じたい。地球の歴史から考えるなら、人類(ホモ・サピエンス)は生まれて約20万年に過ぎない新参者で、ウイルスは約30億年と遥かに長い歴史を持つ。人類がウイルスに勝つなどは幻想に過ぎず、人類はウイルスと共生し、怖れるだけではなく、主体的に賢く制御していくという目線が必要だ。
子どもにもわかりやすく言うなら「ばいきんまんあってのアンパンマン」という世界観。ウイルスを前提とした生活と社会、経済を構築していかなければならない。
さて、コロナ禍によって明らかになったことの1つに、科学ジャーナリズムの衰退がある。「命が大事か、経済が大事か」といったヒューマニズムが先行し、日本は外出自粛、テレワークといった道を選んだ。これは恐怖心が理性を凌駕した結果といってよい。政府の諮問委員会もマスコミも「専門知」という落とし穴に落ちないよう「全体知」に裏付けられた施策の実行が求められる。
この日本の結果を世界はどう見ているか。日本は中央司令塔の強力な牽引はなかったものの、医療制度や国民皆保険、中間層の厚さ、衛生意識の高さなどによって、この危機を乗り切ったというのが海外の評価だ。我々はこれを強い教訓として、これからのウイルスとの共生に活かしていかなくてはならない。
コロナ禍によって見えてきたものはほかにもある。例えば、都心に広いオフィスを構えることの是非。テレワークを併用することで、スペースを減らし、オフィスを分散することも可能だ。さらに、経営者に対する社員のロイヤリティが希薄になることから、経営者はより強いビジョンを示す必要がある。それと同時に、社員はより厳格に成果が問われることになるだろう。また、医療関係者の努力はもちろんだが、物流やスーパー、コンビニなどのインフラがあってこそ生活基盤が守られたことも忘れてはならない。
在宅勤務が一般化したことで、夫婦間の関係にも変化が現れ、退職した独居高齢者たちの行動様式も問題になった。コロナ共生の時代には、自分自身でテーマを持って活動する人でなければ行き場がなくなることを自覚する必要がある。
緊急事態宣言の解除で、トンネルの出口に近づいたが、長いトンネルを抜けた先に、どんな世界が広がっているのか。明るい広い世界を見るためには、一人ひとりが自問自答し、今回見えた問題点をひとつひとつ解決していく必要がある。
(2020年5月26日取材)
PROFILE
寺島 実郎
てらしま・じつろう
一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『日本再生の基軸 平成の晩鐘と令和の本質的課題』(2020年、岩波書店)、『戦後日本を生きた世代は何を残すべきかわれらの持つべき視界と覚悟』(佐高信共著、2019年、河出書房新社)、『ジェロントロジー宣言―「知の再武装」で100歳人生を生き抜く』(2018年、NHK出版新書)など多数。メディア出演も多数。