心が浮き立つ感動体験と新しい価値を創造したい
アフロマンス

Opinion File

マグロハウス。プロの解体師がさばいたマグロは、マグロに合う日本酒とあわせてその場で提供。外国人客にも大人気。

新しい体験と楽しさを追求する価値とは

アフロマンスさんは、縦横無尽なアイデアと前例がないものを形にする実現力で、世の中の話題をさらうイベントやパーティーを次々と手掛けるクリエイティブディレクターだ。彼がつくりあげる「新しい体験」は、多くの人々を魅了する。
「私はものを売っているわけではなく、『体験』を売っています。ワクワクするような体験を楽しんでもらい、新しい価値をつくりたいのです」
例えば、2012年に開催された「泡パーティー(※1)」。大量の泡にまみれて踊るというこの音楽イベントには、300名規模の会場に3,000名を超える応募が殺到し、一躍話題になった。
また、「Slide the City JAPAN」では、街中を300mの巨大ウォータースライダーで滑るという企画を実現。「街中×巨大ウォータースライダー」という意外な組み合わせによる非日常体験が、多くの人々を熱狂させた。ほかにも、マグロの解体と音楽を組み合わせた「マグロハウス」、家電メーカーとコラボレーションした「低音卓球」など、前代未聞のイベントを開催している。
「昔から、何かをつくることが好きでした。高校時代にマンガの同人誌をつくったり、映画づくりの脚本と監督を担当したり、大学時代にはミスコンを立ち上げたり……。でも、イベントで生計を立てようとは思ってはいませんでした」
大学卒業後は、「イベントもWebも映画も、何でもできそう」という理由で広告業界へ。趣味として音楽イベントなどを開催していたが、「凝り性かつ飽き性」の性格から、普通にやることに飽きてしまった。そこで、プライベートビーチやビルの屋上を貸し切るなど、新しい企画を考え実践していった。
独立のきっかけになったのは、BBQイベントの参加者からかけられた言葉だった。
「ごく普通のBBQイベントでしたが、参加者の1名に『救われた』と言われました。その人の話を聞くと、『この会にきて、踊って楽しんでいるうちに、日常の辛いことや大変なことを忘れられた』と。私は誰かを救おうと思ってやっていたわけではなく、私自身も参加して楽しんでいただけなのに、そんなにも感動してくれた人がいるのかと衝撃を受けました」
楽しい体験は、人の心を動かす。人によっては、状況によっては、それは人生において貴重な時間になるのかもしれない。それならば、「楽しさ」の追求には価値がある。アフロマンスさんは、趣味ではなく、やりがいのある仕事として「楽しさ」の追求に人生をかける決意をした。

理屈で考えるのではなく人の気持ちが動くかどうか

低音卓球(家電メーカーとのコラボレーション)。巨大なスピーカーの中での卓球は、球が360度どの方角からも跳ね返るため、まるで新しい競技のよう。
バーニングマンに参加した時の写真。広大な砂漠に、1週間限定の街が現れる。自己表現とギフティングがあふれる世界観に衝撃を受けた。

次々と生み出される興奮のイベント。その奇抜なアイデアは、どこから生まれるのだろうか。企画を考える時にいつも意識しているのは、理屈ではなく、感性、人の気持ちの動きであるという。
「マグロ解体ショーと音楽を組み合わせたのは、大昔もこうだったのではないかと想像してみたんです。みんなで大きな獲物をつかまえて、解体作業をしている時には、『おお、みんなでたっぷり食えるぞ~!』と興奮したはず。そうした狩猟のDNAを刺激され、興奮や喜びが抑えられなくなって歌えや踊れの状態、つまり『祝祭』になったのではないだろうかと。そもそも、解体行為にはリズムがありますから、音楽とも相性はいいはず。じゃあ、現代の祝祭ならハウスミュージック(※2)と組み合わせたら、おもしろくなるぞということなんです」
あえて異分野のものを組み合わせるのも手法の一つだ。例えば、重低音の響きが売りのスピーカーを宣伝するイベントを依頼されたら、たいていの場合、「スピーカーといえば音楽」と発想する。しかし、スピーカーを展示して音楽を試聴してもらうイベントやアーティストを起用したPRは、当たり前すぎて印象に残りにくい。
「連想ゲームのような発想は、まず避けます。無意識のうちに、意表を突きながらも相性の良い組み合わせを探っています」
その結果、生まれたのが「低音×卓球」の組み合わせだった。DJによる重低音ミュージックを楽しむパーティーイベントの場に、巨大スピーカーの中で卓球ができる装置をつくったのだ。巨大スピーカーのウーハー部分(重低音を出す部分)を卓球台にして、球を打ちあうと、プレーヤーは筒の中で増幅された重低音をたっぷりと味わうことになる。非日常体験が「おもしろい!」と高揚感を生み、記憶に深く刻まれるというわけだ。
「ありそうでなかった異分野のものをかけ合わせたり、意外な場所で開催したり、信じられないくらい大量にしたり、企画をおもしろくするために工夫しています」

ギフティングへの気づきが人生を変えるカギに

独創的な活動を広げるアフロマンスさんに強い影響を与えたのは、米国ネバダ州で毎夏開催される大規模イベント「バーニングマン(※3)」だ。
バーニングマンの参加者は、イベント期間中にのみ荒れ野に現れる「Black Rock City(ブラック・ロック・シティ)」で暮らす。その町には、電気や水などのライフラインはない。携帯電話の電波も届かず、お金のやりとりも禁止。何とも過酷な環境の共同体で過ごすことになるが、そういう場合、人々は巨大なオブジェをつくったり、歌ったり、踊ったり、思い思いに活動するようになるという。
「日本では、アートはアーティストがするものという感覚があり、一般の人はあまり関わらないようなイメージが強いですが、本来、アートは特別なものではないと思います。バーニングマンが素晴らしいのは、表現すること自体をよしとして、皆が表現者やつくり手側になるところです。その表現も、度肝を抜かれるものばかりです」
バーニングマンは、ただのイベントというより、社会実験的な意味合いがあると考えるアフロマンスさん。将来、ベーシックインカム(※4)が保障され、生活のために働く必要がなくなれば、人は膨大な時間を使って何をするだろうか。アフロマンスさんは、行きつく先はアート(芸術)だと指摘する。
「みんな、やりたいことをやるでしょう。理屈ではなく、心が動くから、自分が『やってみたい』と思うから活動するはずです。それで自分も楽しくなり、周りの人も喜んでくれたら、もっとうれしくなる。その時、本当に純粋な喜びを感じるでしょう。ギフティング(与えること)の喜びです。50年後の世界は、本当にそうなっているかもしれません」
音楽を聞かせたいから、無料ライブを開いて演奏する。自分の行動で相手が喜んでくれるから、義務でも強制でもなく自ら行動する。アフロマンスさんは、見返りを求めないギフティングの考え方は、次世代のキーワードになるのではないかとも考えている。
「今の社会では、『なぜ無料で?』と思う人も多いでしょう。職業として音楽をやるのか、自分がやりたいから音楽をするのか。突き詰めると、生き方や人生観にも関わってくる問題です。そこに気づいたのがバーニングマンです。そして、世界中の多くの人々もそれに共感している。だからこそ、毎年7万人もの参加者が集まるのでしょう」
アフロマンスさんは、もともと人にはギフティングの喜び、自分の持てるものを相手に与えたいという感覚が備わっていると考えている。
「例えば、家族や友達の誕生日をお祝いするとします。家を花や風船などで飾ったり、プレゼントの渡し方を考えたり、いろいろ工夫した結果、相手が喜んでくれて楽しい時間を共有できたら、満たされますよね。幸せだと感じるでしょう。ギャラなんていらないわけです。むしろ、対価をもらわないからこそ、幸せを感じられるのです」
見返りを求めないからこその幸せ。アフロマンスさんが感じているように、それは、もうすでに私たちのすぐそばにあり、今後その価値が見いだされていくのかもしれない。

「新しい体験」の実践を今後も続けたい

コロナ禍でも楽しめる、新しい音楽イベントの形「ドライブインフェス」のテスト開催の様子。

コロナ禍のため、これまでのような体験型イベントやパーティーの開催は難しいかもしれない。それでも、アフロマンスさんは、新しい方法を模索し続ける。
「感染防止対策をした上でのイベントやエンターテインメントは、大勢の人々が求めています。諦めずに工夫することが大切です」
現在、今夏(7~8月)の開催に向けて準備しているのは、車の中で音楽を楽しむ「ドライブインフェス(※5)」。米国や韓国で注目されているドライブインシアターのように、自家用車で集まれば、いわゆる「3密」は避けられる。音楽フェスにつきものの騒音問題も、音楽の車内配信なら問題を解決できる。子ども連れのファミリーも参加しやすい。
アフロマンスさんが企画を考える時には、いつも最終的な完成形を思い描いている。発案者のその強い確信が、スタッフとビジョンを共有し、企画を実践する力となるからだ。
「『試着パーティー』もやってみたいと思っています。百貨店で気になる服を試着して、試着室の鏡の扉を開けると、もうそこがパーティー会場、みたいな……。モデル体験を味わえるランウェイがあっても楽しいかもしれません」
利便性を追うのではなく、その場にいてワクワクするような楽しみを味わう体験こそ価値がある。その新しい価値を創造するために、アフロマンスさんは法律やコスト、「前例がない」と難色を示すクライアントの説得など、様々な課題を解決しながら企画を推し進める。
「コストや売り上げが気になるクライアントも納得し、参加者に楽しんでもらい、私もやりたいことをやる。針の穴に通すように、難しい場合もありますが、私は毎回、針の穴は必ずあると思っています。見つかった時は、本当にうれしいです」 
卓越した企画力と実現力。アフロマンスさんによる「新しい価値の創造」は、留まるところを知らない。

取材・文/ひだい ますみ 写真提供/Afro & Co. Inc.

KEYWORD

  1. ※1泡パーティー
    現在、「泡パ」はAfro&Co.の登録商標。「泡パ®」をはじめ、野外フェス「泡フェス」、ハロウィンパーティー「泡ハロウィン」、ファミリー向け「泡パーク」など、様々な形で日本全国に展開中。
  2. ※2ハウスミュージック
    米国で誕生した音楽ジャンルの一つ。1980年代~90年代のクラブやディスコに登場し、ダンスフロアを賑わせた音楽。
  3. ※3バーニングマン
    米国ネバダ州開催の大規模イベント。毎年、8月の第4週の月曜日から9月の第1月曜日にかけて開催される。参加者は食料や飲み物など必要なものはすべて自分で用意し、助け合って共同体をつくり上げていく。
  4. ※4ドライブインフェス
    最低限所得保障の一種で、政府がすべての国民に対して最低限の生活を送るのに必要とされている額の現金を定期的に支給するという政策。世界中で限定的なパイロットプログラムも開始されている。
  5. ※5ベーシックインカム
    7~8月の初回開催に向けて開催準備中(詳しくはhttps://afromance.jp/project/driveinfesを参照)。ドライブインフェスの知見は可能な限りオープンソース化し、同様のイベントを開催したい方々へのサポートも考えている。

PROFILE

アフロマンス
クリエイティブディレクター
Afro & Co. Inc. 代表

クリエイティブディレクター。パーティークリエイター。DJ。Afro & Co. Inc. 代表。本名、中間理一郎。1985年、鹿児島生まれ。京都大学工学部建築学科卒。大学在学中に「アフロマンス」名義で活動をスタート。広告会社を経て、2015年、「世の中に、もっとワクワクを。」を理念に掲げ、クリエイティブカンパニー「Afro & Co.」のクリエイター兼CEOとして独立。