コロナ禍がもたらした国境の蘇りと新しいグローバル化
寺島 実郎

Global Headline

日本国内で2025年に新型コロナウイルス感染症が原因で死亡した人が2万1,497人だったという数字が公表された。すでにコロナ禍のトンネルを抜けたと思っていたが、その時に起こった構造変化は今も続き、世界に様々な影響を与えている。

その影響の一つが「国境の蘇(よみがえ)り」と言える現象だ。21世紀のキーワードだった「グローバル化」は、ヒト、モノ、カネ、技術、情報が国境を越えて移動し、さらに加速すると考えられていたが、コロナ禍によって移動が制限され、あるいはコロナワクチンや補助金などの国による管理が強化された。世界は国境を越えるダイナミズムの中を生きているはずだったが、国境線を強く意識せざるを得ない現象が起こったのだ。

そこに登場したのがトランプ2.0である。「アメリカファースト」を掲げて再登場したトランプ大統領によって、世界はかき回されている。米国自身が主導してきた、国際協力や開発援助など、対話と協調による世界秩序を自らの手で壊し、世界はそれに代わる新しい秩序を模索しなければいけない状況にある。

加えて、生成AIなどの登場により、新しい次元の情報技術革命が進行中だ。つまり今、世界は歴史的な転換点の中にある。

だが、世界的にナショナリズムが強まる一方で、グローバル化そのものが終わったわけではない。2001年以降の25年間で世界の名目GDPは34.1兆ドルから118.2兆ドルへ、約3.5倍に拡大し、世界人口も約63億人から約82億人に増えた。さらにビッグデータ、生成AIなど情報技術革命が加速し、国境を越えた経済活動や金融資本の動きも一段と巨大化している。むしろ、これまでの「グローバル化」が「米国型資本主義の世界化」だったとすれば、今こそ本当の意味のグローバル化が始まっていることを予感させる。

重要なのは、この世界を米中二極対立、あるいは民主主義対権威主義といった単純な構図で捉えないことである。グローバルサウスが存在感を増し、国家権力を超える巨大IT企業が登場するなど多様な主体が国境を越えて自己主張を始めている。世界を「極」で捉える時代から、多次元的な「全員参加型秩序」の時代へと移行しつつあるのだ。

日本に求められるのは、自国の埋没も含め、こうした変化を直視する柔軟な思考である。日米同盟だけを重視していては、世界の実像を見失う。コロナ禍とトランプ2.0の衝撃の向こう側で進行する新しいグローバル化を見据え、多次元化する世界とどう関わるのか。その構想力こそが日本に問われている。

(2026年8月18日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『歴史の条理に立つ勇気と構想 2045年 日本の道標』(2026年、岩波書店)、『世界認識の再構築 一七世紀オランダからの全体知』(2025年、岩波書店)など多数。メディア出演も多数。
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