伝統の履物文化で健康寿命を延ばす
株式会社丸五

匠の新世紀

株式会社丸五
岡山県倉敷市

とび職などに愛用される地下足袋(左)とTabi boots「Re:Moga」(右)。Re:Mogaは予約商品で約3カ月待ち。

職人や農業従事者に愛用される地下足袋を発明し、100年以上もその伝統を守り続ける企業が岡山県倉敷市にある。同社が今提案する、健康寿命を延ばす“足袋型シューズ”とは?

老舗メーカーが生み出す斬新な足袋型シューズ

株式会社丸五 フットウェア事業部
事業部長 波止 英さん

JR東京駅の近く、東京・京橋にユニークなシューズショップがある。インバウンド(訪日外国人)で賑わう「MARUGO TOKYO」は、日本伝統の作業用シューズ「地下足袋(じかたび)」をベースにしたファッショナブルな「足袋型シューズ」を扱うショップ。岡山県倉敷市にある地下足袋の老舗メーカー、株式会社丸五の直営店だ。丸五の本社を訪ね、同社フットウェア事業部事業部長の波止英(なみどめすぐる)さんにお話を聞いた。

1919年創立の丸五(創業時は丸五足袋株式会社)は、地下足袋を製造・販売する会社として設立された。

「当時、倉敷市では綿花栽培が盛んで、明治期には繊維産業が勃興し、倉敷紡績などの大企業が生まれました。この周辺では座敷足袋をつくっている工場がたくさんあり、弊社の創業者、藤木伊太郎もその一人でした。ある時、足袋の底に人力車のゴムタイヤを貼り付けたら、もっと丈夫で外でも履けるものができるのではないかと思いつき、つくったのが地下足袋です」

日本初のワークシューズ「地下足袋」の発明だった。地下足袋は丈夫なだけでなく、履き心地もよかったことから、農業従事者や建設・土木業の職人に愛用された。さらに軍隊でも採用されたため、出荷量は急激に伸び、日本だけでなく東南アジアへも出荷。丸五は大企業へと成長した。

だが、戦後は、とび職(高所作業専門の建築技術者)などには従前通り愛用されたが、建設技術の進歩にともない、利用者は次第に減少した。一方、祭りの参加者に丸五の地下足袋が人気になっていた。

「神輿(みこし)や山車(だし)を用いた祭礼、さらにはエイサーやよさこいなどの参加者に 弊社の“祭り足袋”を使用いただいており、祭り足袋市場で丸五のシェアは約6割といわれています」

品切れ続出の足袋型フラットシューズ「coppelia lily」(写真提供:株式会社丸五)。
かかとにエアバッグが入っている祭り足袋「マジックエアージョグ6枚」(写真提供:株式会社丸五)。

一通のメールから始まった地下足袋の進化

販売好調のきっかけとなった「たびりら」。倉敷産の帆布を使用したカジュアルなデザインが好評(写真提供:株式会社丸五)。
型紙はCADで一つずつ設計する。
革は1枚ずつ切断する。量産時には、機械で型抜きする。

そんな丸五に大きな転機が訪れたのは、2000年頃。日本に留学経験のあるフランス人からの一通のメールだった。

「地下足袋の生地の色を変えることはできませんか」

彼は帰国後に、留学中に気に入った地下足袋を、日本から個人輸入してフランスで販売していた。これが親日派のフランス人に好評だったため、色を変えたらもっと売れるのではないかと問い合わせてきたのだ。丸五はこの要望に応じて、中国の自社工場で特別生産したものを「ASSABOOTS」として彼に送り、これが予想以上に売れたという。「ASSABOOTS」の好評を受け、2013年には逆輸入で日本での展示会にも出品してみた。

「ところが、興味は持ってくれるのですが、特に高齢者ほど『地下足袋は労働用の履物』というイメージがあり、購買にはなかなか結びつきませんでした」

そんな時に入社2年目の若手デザイナーがつくったのが、地下足袋の立ち上がり部分を大胆にカットした女性用シューズだった。

「スペインのエスパドリーユというスリップオン型シューズから着想を得たもので、カジュアルなデザインが特徴です。地元倉敷の特産品である帆布(はんぷ)を用いて、『たびりら』という商品名で販売したところ、履き心地がよいというのでけっこう売れたんです」

布は金型を当てて、複数枚を一度にくりぬく。
足指の二股構造にぴったり革を貼るのが職人技。

繊細な足裏感覚が足本来の機能を再生

足裏のゴムの圧着は機械で。接着剤を塗ったゴムを高温と加圧で固める。
ゴムを圧着したあと、はみ出した接着剤などを一つひとつ処理する。

このビジネスはちゃんとやれば成功するのではないかと感じた波止さんは、地下足袋がなぜ100年以上も生き残ってきたのか、その価値を確認することから始めたという。

「地下足袋が長年愛されている理由は、その履き心地です。特にとび職の方々が、今でも地下足袋を欠かさない理由は、足裏から伝わる感覚で地面の状況や危険を察知することができ、さらに指股が分かれていることでしっかりと踏ん張れるからです。この安全性と作業性があるからこそ、危険な作業をするとび職の必需品になっているわけです」

さらに、波止さんはこの地下足袋が持つ繊細な足裏感覚が、健康にもいい影響を与えることに注目した。それが足裏や指の筋肉などの足の機能を復活させる「ベアフットリカバリー」の効果だ。

「人間はクッションの効いたシューズを履き慣れると、かかとから強く着地する歩き方になりがちで、膝や腰に過度な負担がかかる場合があります。ところが、底の薄いシューズを履いて足裏感覚を取り戻すと、足裏のアーチを使った正しい歩き方ができるようになります」

正しい歩き方は、偏平足や外反母趾などの足の不調を未然に防ぎ、健康な足づくりに役立つ。

こうしたことから新デザインの足袋型シューズを「マルゴ ウェルネス(ウェルネスは、身体的・精神的・社会的に健康な状態)」と名付けた。足裏感覚がもたらす健康効果も期待できることをアピールしながら、現代のライフスタイルに合うファッション性と、納得感のある価格帯の“メイド・イン・ジャパン”の新製品開発を目指してきた。

例えば、国産レザーを使用した「たびりらレザー」、スニーカー型の「スポーツジョグ」、裸足に近い感覚のトレーニングシューズ「hitoe」など、現在は18ブランドを揃える。

また、大学など研究機関との共同研究も行い、様々なデータを積み上げてきた。

「足袋型シューズを履いて練習すると、足や指の筋肉が強くなり、足裏のアーチがしっかり機能することで、足指の把握力やバネが強くなるので、アスリートのパフォーマンスが上がります。さらに、怪我もしにくくなることがわかっています。このため、プロ野球選手のオフトレーニング、サッカー、陸上の選手などのトップアスリートが基礎トレーニングに取り入れる例が増えています」

経営陣の寛容さが伝統を守り革新を生む

実は、丸五では大正時代の「地下足袋」の発明だけでなく、昭和初期の「ゴム引きの軍手」、平成時代の「エアバッグ入り地下足袋」など、時代ごとに日本初の(つまりは世界初の)製品を生み出してきた。波止さんは、こうした新しいものを生み出す原動力は、経営陣の「寛容さ」にあると語る。

「当社の経営陣には『面白そう、やってみなさい』という空気があります。失敗を恐れずにチャレンジさせてくれる環境がある。それが、100年前の地下足袋から、現代のウェルネスシューズまで、多彩な商品を生み出す原動力になっていると思います」

足袋型シューズは、次第に認知度が高まり、特に女性向け製品は生産が追いつかないほど人気だ。 波止さんは今、生産体制の強化を目指しながら、海外展開も視野に入れている。

「私たちの目標は、単に足袋型シューズを売ることではありません。足袋型シューズを通じて、健康な足を維持していただき、自分の足で一生歩ける健康寿命を延ばしていただくことが目標です」

伝統を守るには革新が必要──。製造業の取材でよく聞かれるこの言葉を、様々な角度から実践しようとしている丸五。

「職人が一足一足、手作業でつくり上げた足袋型シューズの履き心地は、他の靴では決して味わえません。人間の足が本来持っている力をぜひ実感していただきたいです」

波止さんの言葉には、老舗企業の誇りと、未来を切り拓く開拓者の自信が溢れていた。

1919年、創立当時の看板。「丸五足袋株式会社」として設立された。
足本来の力を引き出す足袋型トレーニングシューズ「hitoe」(写真提供:株式会社丸五)。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉

PROFILE

株式会社丸五

1919年創立の老舗地下足袋メーカー。農業や建築業で使用される地下足袋のほか、祭り足袋、セーフティーシューズなどを生産・販売。祭り足袋では約6割のシェアを持つ。足の健康によい「足袋型シューズ」で新分野を開拓中。岡山県倉敷市美観地区と東京都中央区京橋に直営店がある。