今、日本人が直視すべき「埋没し、内向する日本」という現実
寺島 実郎

Global Headline

2026年の幕開けとともに、世界情勢は激しく流動し始めている。とりわけイランをめぐる緊張とエネルギー・パラダイムの転換は、今後の世界を占う上で決定的な意味を持ち、時代の転換点となるだろう。こうした事態に直面する今、我々日本人が直視すべきは、客観的な統計が示す「埋没し、内向する日本」という冷徹な現実である。

国際通貨基金(IMF)などの最新データによれば、世界のGDPに占める日本の比重は、1994年のピーク時(17.8%)から劇的に低下し、2025年は3.4〜3.7%程度にまで落ち込んだと予想される。このマクロ経済的な地盤沈下は、産業の根幹を支える指標においても鮮明だ。国の工業力を測る世界的な指標である粗鋼生産量は2000年当時の約1億690万トンから約8,000万トンへと約25%減少した。景気動向や化学工業の指標といわれるセメントやエチレンの生産量も2000年比で3〜5割近く減っており、日本の産業力は明らかに縮小している。

興味深いのは、産業力が圧縮する一方で、企業業績が「史上最高」を記録するというパラドックスが生じている点である。これは過剰生産や在庫を避け、コスト削減による「稼ぐ力」を追求した結果だが、それは同時に、日本の産業としての規模感が圧縮され、大きな構想力を持つ経営が影を潜め、内向きの最適化に終始していることを意味する。

この「内向きの視線」は、人々の意識にも影を落とす。海外からのインバウンドが急増する一方で、日本人の海外出国者数はコロナ禍前の水準に遠く及ばない。日本人のパスポート保有率は、17.8%でピーク時よりも1割近く減り、世界への関心は低い。内側の豊かさや安らぎに安住しようとする「内向」の姿勢は、グローバルな知性からの乖離(かいり)を招きかねない。

そのような中で起こった米国とイスラエルのイラン攻撃という情勢に対して、日本はどう対峙(たいじ)すべきなのか。ホルムズ海峡の通行が困難になり、石油供給が不安定化して困るのは、当事者である米国ではなく、中国や日本などのアジア諸国だ。なぜなら、米国は世界最大の産油国で、ホルムズ海峡を通る原油は米国にはほとんど行っていないからだ。さらに、原油価格の高騰で恩恵を受けるのは、米国の石油資本とプーチン大統領のロシアというような皮肉なことが起こるだろう。

今、我々日本人がなすべきは、世界を構造的にとらえる「視座」を再構築し、リアリズムの中で自らを試すことだ。時代の転換期にあって、客観的な現実に裏打ちされた「世界の中の日本」を再構築することが、次世代に対する我々の責務ではないだろうか。

(2026年3月3日取材)

PROFILE

寺島 実郎
てらしま・じつろう

一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『世界認識の再構築 一七世紀オランダからの全体知』(2025年、岩波書店)、『21世紀未来圏 日本再生の構想──全体知と時代認識』(2024年、岩波書店)、『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』(2022年、NHK出版)など多数。メディア出演も多数。
TOKYO MXテレビ(地上波9ch)で毎月第3日曜日11:00〜11:55に『寺島実郎の世界を知る力』を放送中です(見逃し配信をご覧になりたい場合は、こちらにアクセスしてください)。