大学生向け 火力編@磯子ツアー レポート

エコ×エネ体験ツアー 火力編@磯子学生ツアー 2023年ツアーレポート

3日目 9:00

社会と科学の懸け橋としての「科学技術コミュニケーション」

最終日の朝は、ドクターの「でんでんむし」体操からスタートし、体と頭を働かせました。「でんでんむし」体操とは、何事も物事にはつながりがあることを楽しく考える体操です。楽しくみんなで体操した後、ドクターは、自動車産業を例に、物事にはすべてつながりがある、環境に優しいだけではなく雇用も創出する部分を大事に考え、広く普及することでひとり勝ちの産業構造にならないような「多様性」をもった仕組みに留意する大事さを解説しました。

最終日の朝はドクターの「でんでんむし」体操からスタート。笑いとともに頭と体が目覚めます
最終日の朝はドクターの「でんでんむし」体操からスタート。笑いとともに頭と体が目覚めます

ゆかりんによる最後の講義「科学技術コミュニケーション概論」では、環境問題や私たちの暮らし、これからの私たちと、科学技術コミュニケーションの関係やあり方を考えました。日本は70年代の公害問題を経験し、解決に向けて努力を重ねました。そして90年代には国境を超える課題として環境問題が世界的なテーマとなりました。当時メディアにいた、ゆかりんは環境問題に取り組むためには多くの人が科学を知って発信することの大切さを感じたといいます。

なぜ科学技術コミュニケーションは必要なのでしょうか。科学技術は、社会のあり方や個人の生き方、未来をも左右します。そのため「対話による科学技術政策への市民参加」が重要とされます。科学技術は私たちの生活に密接な関係にあり、そのため問題意識をもち続けて何かあったときに疑問をもてるリテラシーが必要です。それは正しく教える、教わるだけではなく、自分で考え、対話することがベースだと、ゆかりんは話しました。また同時に、科学者自身が社会リテラシーを高めることが対話では必要とされます。

現在、多くの人が不安をもつ健康問題や災害などは、科学に問うことはできますが、社会や政治がどう対処し解決すべきかまでは科学だけでは判断できないケースが数多くあります。こうした「トランス・サイエンス」の事例では、社会と科学の間にあるさまざまな難しい事象を捉えて、科学の可能性と限界、不確実性と向き合うためのコミュニケーションが必要となり、また自分自身で考えることが大切です。そのため、科学技術と社会の望ましい関係を考え、科学技術の楽しさを市民と分かち合う、そうした場づくりもさまざまに模索されています。今後はさらに対話や交流を通じて、未来や新しい価値へ向かうことが望まれます。

このエコ×エネ体験ツアー火力編は「科学技術コミュニケーション」がベースになっています
このエコ×エネ体験ツアー火力編は「科学技術コミュニケーション」がベースになっています

ゆかりんは「自分事として考えることは絶対に必要ですが、ひとりでできなければ仲間を探しましょう。周りにいなければ旅に出て探しましょう。そんな旅のために科学技術コミュニケーションを使ってくれたら良いと思います」と話しました。

3日目 10:20

「平等と公平とは何か」という本質的な課題を深める時間に発展

2日間の体験を経て最後のプログラムでは、学生たちが「どんな社会を作りたいのか」をテーマに、その社会を作るために何をするのかを計画して発表します。まずはノートに自分の考えを書き、そのノートを見せながら「旅」をして仲間を作り、最終的に4~5人のグループへ。学生たちは交流の輪を広げ、時には1つの輪になったり、また自然に分裂して小さい輪が複数できたりと、グループ形成のようすはとても興味深く、話す過程で自分の意見が変化していく化学反応も見えました。そして昼食前には4グループが確定。その後、グループ・ディスカッションを経て「どんな社会をつくるのか」を模造紙にアウトプットしていきました。

仲間をつくる「旅」では誰もが真剣そのものでした
仲間をつくる「旅」では誰もが真剣そのものでした
グループでディスカッションを重ねた上で模造紙にアウトプットしていきます
グループでディスカッションを重ねた上で模造紙にアウトプットしていきます

ゆかりんは「考えを伝え、人の話も聞き、聞いたことから刺激を受けて新たなアイデアや意見につなげ、新たな考え方に結び付けるというように議論を積み重ねていくことが大事」と伝え、いよいよグループの発表に進みます。

「よりよい不完全な社会へ」(メンバー:おおちゃん、はなちゃん、まピコ、よっちゃん)

まず「不完全」とした理由を説明しました。多様な人が多様な意見をもって社会はできているが、議論になると意見が潰され、他の人の意見に合わせることもある。多くの人の価値観を残すには、議論をやめずに続けることが必要だとしました。そこから相互理解によって、理想的な「より良い不完全な社会」に近づくことを目的に設定。不完全な社会から、より良い不完全な社会へ、さらにその不完全な社会から向上することが重要だと考えました。実現のためには「自分事の範囲を広げる」「議論のタネをもつ人が増える」「議論や発信の場を設ける」「相互理解の促進(賛同することではない)」という4つのサイクルを回していくことがあげられました。

「よりより不完全な社会へ」(メンバー:おおちゃん、はなちゃん、まピコ、よっちゃん)
「よりより不完全な社会へ」(メンバー:おおちゃん、はなちゃん、まピコ、よっちゃん)

「人の交わり」(メンバー:うえもっち、まるくん、みつき、しょう、かい)

より良い社会の実現のためには「人の交わり」が必要な要素だと考えました。人が交わって対話や議論をするからこそ、足りないものを補い合えます。「人の交わり」に必要な交わる場の提供では、まず交流できる場を認知する機会を増やすべきとし、ただ場があって認知したとしても、挑戦しない、生かそうとしなければ、人との交わりはできない、また興味のない人が参加できない現状を問題点として捉えました。そこから人の交わりを促進する解決策として、横浜方式のような交流活発なモデル都市、サイエンスカフェやサイエンスショップ、エコ×エネ体験ツアーの3つの事例をあげました。

「人の交わり」(メンバー:うえもっち、まるくん、みつき、しょう、かい)
「人の交わり」(メンバー:うえもっち、まるくん、みつき、しょう、かい)

「すべての人が幸せになるために公平かつ安全を確保した社会」(メンバー:いのくん、かっしー、まっきー、おかっち、コボちゃん)

すべての人が幸せになるために「公平や安全が確保できる社会」の実現を目的としました。選択肢の欠乏が不幸につながり、また結果が同じでも自分が選択できれば納得できるのではないかと考えたといいます。そこで、選択肢の保護を考え、公平と安全に絞り、世界中のすべての人に安全なインフラを供給。電気・水道・ガス、また情報へのアクセスの安定したインフラを基盤に、経済格差にとらわれない選択肢の多様性を実現するとしました。また公平も一律、全員に同じ対応ではなく、有名な「平等と公平」の図を引き合いにして、必要な人に対応することで、全員に対して同じ選択肢が視界に入り、また選択肢自体に多様性をもたせるとしました。安定したインフラと経済格差にとらわれない選択肢の多様性の2つの要素で、すべての人の幸せを実現していくといいます。

「すべての人が幸せになるために公平かつ安全を確保した社会」(メンバー:いのくん、かっしー、まっきー、おかっち、コボちゃん)
「すべての人が幸せになるために公平かつ安全を確保した社会」(メンバー:いのくん、かっしー、まっきー、おかっち、コボちゃん)
このグループの発表を起点に「平等と公平とは何か」に議論は進んでいきました
このグループの発表を起点に「平等と公平とは何か」に議論は進んでいきました

「みんなが納得して発展する社会」(メンバー:リョック、ようたろう、なかじま、ひょう、ゆみ)

目指すのは「みんなが納得して発展する社会」です。そのためにはまず新技術の発展から利便性の向上を考えました。また新技術を使うために必要な技術があり、今まで需要がなかった技術も需要が増えることで日が当たるとしました。多角的に技術の枝分かれを増やせばいろんな部分でつながる。そうした新技術をもたらすには、まず「納得」が基盤になる。また「納得」を得るのは難しく、もっとも時間がかかると考え、どうやって納得するかを詳しく問題提起しました。まず市民・科学者の「交流」を前提に、交流する相手がどのような考えか、当事者意識をもって「知る」準備をする。その事前準備後に「体験」へ。技術者ならば市民、市民ならば技術の影響の「検討」を行って自分たちならばどう考えるかを振り返り、「意見」を交えて相互理解を深めるサイクルに結び付けるとしました。

「みんなが納得して発展する社会」(メンバー:リョック、ようたろう、なかじま、ひょう、ゆみ)
「みんなが納得して発展する社会」(メンバー:リョック、ようたろう、なかじま、ひょう、ゆみ)

発表後は「そもそも平等と公平とは何か」というディスカッションに自然と移っていきました。ゆかりんは「平等と公平とは何なのか。この話は世界がどんな国の体制をとるかといった、それこそ人間が何世紀も続けてきた、とても大きな話だと思います。どのような社会を作り、何に価値を置くのか、世界中の人たちが考えている大きな命題です。今日の4グループの発表は、そうした社会課題の解決のために、みんながたくさん考えた結果だと感じました。こういうことを考え続けられる社会であってほしいし、選べる社会であってほしいし、考え続けたことを広げていける社会であってほしいというのが私の願いです」と総括しました。参加者は、まだまだ議論を重ねたいといったようすでしたが、このモヤモヤをお土産としてもち帰ることも、このツアーの魅力のひとつと言えます。

真剣に聞き、語り合う学生たち
真剣に聞き、語り合う学生たち
3日目 14:00

「わたしたちの船出」~これから卒業までの間に自分は何をするか~

最後のセッションは1人で考える時間です。この3日間の体験を生かして、これから自分は何をするかを具体的に表明します。船の形の黄色い紙に1人ずつ宣言して、横浜市の沿岸部の地図に貼っていきます。それぞれの宣言では、「旅をする」「子供達の進路選択において視野を広げる支援をする」「所属や年齢と関係なく、交流を広め深める」「まあいっかをやめる」といった明日からでも始められそうな具体的な行動が並んで、とても頼もしさを感じました。

学びの舞台である横浜市沿岸部から、学生たちは思いを新たに船出します
学びの舞台である横浜市沿岸部から、学生たちは思いを新たに船出します

ツアーはいよいよ最後の挨拶へと進みます。ゆかりんは「みなさんの中に何かが残れば良いとは思いますが、何を残してほしいといった具体的なことは求めていません。でも何年か経って、あのときにあんな仲間がいたんだ、あんなことを考えた、考え続けた時間が大切なものになった、そんなふうに思ってもらえれば良いと思います。コミュニケーションの大切さを感じてくれたのではと思います。3日間お疲れさまでした」と伝えました。

しげさんは「3年ぶりの開催でしたが、最後のグループごとの発表やひとりひとりの思いを聞いて、やはり対面で開催して良かったと思いました。それぞれ何か刺激や感じるところがあったと思います。みなさんの素直でまっすぐな気持ちが伝わり、これからの未来は明るいと思いました。今の気持ちを忘れずに、みなさんの大航海が成功することを祈りたいと思います」とツアーの最後を締めくくりました。

最終日も参加した学生3名から感想を聞きました!

左から、ひょうさん、はなちゃん、なかじまさん
左から、ひょうさん、はなちゃん、なかじまさん

「20年後には児童虐待の報告相談件数を半分にしたい」はなちゃん

小さいころは恐竜博士や宇宙飛行士を夢見ていましたが、高校生のころに児童虐待に関心をもち、法学部に入りました。科学分野への夢も捨てきれず、高エネルギー加速器研究機構(KEK)で素粒子物理学のキャンプに参加したこともあるので、今回、エネルギーとエコロジーについて考える場に参加でき良い経験になりました。昨日の三渓園での寸劇が面白くて、ドクターをはじめスタッフのみなさんが、私たちが親しみやすいプログラムをたくさん用意してくれたのだと感じました。将来は、自分の意見を恐れずに言う人になり、20年後には児童虐待の報告相談件数を半分にしたいです。

「教育の現場をもっと活発なものにしたい」なかじまさん

小学生のころからマンションの間取り図が好きで、そこから建築の道に進もうと思いました。今回のツアーも火力発電所などの設計に興味があって参加しましたが、これまで受動的な教育を受けてきて、ツアーでこんなに積極的に発言できたことが印象に残りました。またダジックアースで世界のCO2濃度などを見られたことにも驚きました。将来は、建築士になりたいと考えていますが、設計するだけではなく、今、不登校やいじめを受けた子供たちの家庭教師もしているので、大学の教授になって教育の現場をもっと活発なものにしたいと感じました。

「当事者意識、環境への配慮、利他の心を大切に」ひょうさん

小さいころから機械系、特に飛行機が好きでパイロットを目指していました。また高校のときに企業に興味をもち、大学では経営系の学部に進学。さまざまな働く現場を見て、話すことは非常に重要なことだと思い、このツアーにも参加しました。「エネルギー大臣になろう!」では当事者意識をもって物事を見ることができ、自分が作った経営のゲームにはストーリー性が足りないと気付きました。航空業界に就職するので、その会社の時価総額を1位にしたいと思っているのですが、そのためには環境への配慮や利他の心も大事だと感じました。

「エコ×エネ体験ツアー学生火力編@磯子」を支えるスタッフからのメッセージ

学生たちと同様に対面ツアーの再開を待ち望んでいたスタッフにも、学生たちに3日間伴走した感想を聞きました!

主催の「J-POWER」
左からJ-POWERのしげさん、やまゆき、まっちゃん
左からJ-POWERのしげさん、やまゆき、まっちゃん
  • 「何でも自由に発言して良い雰囲気がエコ×エネの魅力。社会人になると日々忙しく、夢や希望を忘れがちですが、社会課題を自分事にする今日の熱い思いをもち続けてほしいです」(やまゆき)
  • 「初の参加で、学生の意欲が高いのに驚きました。同じ世代で社会課題やエネルギーをきっかけにコミュニケーションを取り続けるのは仕事をする上でも大事ですね」(まっちゃん)
  • 「学生編は3年ぶりの対面開催で、学生の交流が活発になり、さらにエネルギーや社会課題などを考えるきっかけになったと思います。開催して良かったという手応えを感じたので、またさまざまな交流の場を提供したいと思います」(しげさん)
プログラムの企画開発と運営を担う「サイエンスカクテル」
左から、サイエンスカクテルのイワクニ、ゆかりん、ともやん
左から、サイエンスカクテルのイワクニ、ゆかりん、ともやん
  • 「科学技術と社会、エネルギーと環境などを織り交ぜた横断的なプログラムが、このツアーの魅力のひとつです。そこにはいろいろな人がいて、いろいろな仕事をしていることが理解できると思います。これからも話せる場をつくり、仲間と出会える機会を大事にしてほしいですね」(ゆかりん)
  • 「エネルギーや環境の問題を扱うプログラムの中でリアルさを経験できることが魅力です。社会のありようやコミュニケーションの大切さを、参加した学生に実感してもらえたら良いと思います」(ともやん)
  • 「“多様性”がひとつのキーワードです。いろんな人に実際に会って、考え方に触れて、視点が多様になる。学生にはこのツアーを通じて受け身から自発的に第1歩を踏み出してほしいと思います」(イワクニ)
エコ×エネ体験プロジェクトを支える「高倉環境研究所」代表の髙倉ドクター
高倉環境研究所のドクター
高倉環境研究所のドクター
  • 「このツアーの良さは、やはり実機を見て、本物と触れ合うことです。学部・学科もさまざまな学生が共通のテーマを話し合う。そのリアルの体験は代えがたいものがあります。集まって活動する楽しさ、同じことを考えて話し合う、学び合う楽しさ。日常で生活している場から離れて、「知」がはじける喜び。また“笑い”も大事だと知ってほしいですね」
エコ×エネ体験ツアーを運営する旅行会社「リボーン」
左から、リボーンのいきけん、ふなみん
左から、リボーンのいきけん、ふなみん
  • 「学生はエコとエネを考えるという目的がある、こうした場に飢えていて、丁寧に時間を過ごしていると感じました。頭でっかちにならずに、いろいろな人にリアルで会ってほしいです。旅に出るから出会えて、新しい自分にも気付かせてくれる。そんな旅の仕方をしてほしいと思います」(いきけん)
  • 「同じ世代で違う分野の人と興味のあることを本気で話して、考えて、それを分かち合うのは素晴らしいことです。旅の楽しみは人との出会い。会って反応することで、いろんな発見をしてほしいです」(ふなみん)

3年ぶりの対面での開催となった「エコ×エネ体験ツアー学生火力編@磯子」では、学生の誰もが明るく、良く話し、本当に良い表情をしていました。いよいよリアル体験の機会が増えてくることが期待される中、「エコ×エネ体験プロジェクト」では小学生親子ツアー、学生ツアー、教師向けツアー、社会人向けサイエンスカフェなどのさまざまな学びと交流を計画しています。多くの若者たちがこうした機会から気づきを得て、さらに行動化に向かう場を今後も大切にしていきます。

いつかどこかで再会を!
いつかどこかで再会を!
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