エコ×エネ体験ツアー 火力編@磯子学生ツアー 2023年ツアーレポート
2年続けてのオンライン開催から、2泊3日の“対面”ツアーを再開したJ-POWER(電源開発)「エコ×エネ体験ツアー火力学生編@磯子」は、社会課題や環境問題に関心をもつ学生同士の出会い、電気をつくる現場「磯子火力発電所」見学、全国約100か所に発電所を保有するJ-POWERの社員や科学技術コミュニケーション、環境分野の専門家から惜しみなく伝えられる豊富な知見、深く語り合う濃密な時間が魅力のプログラムです。電気代の高騰やカーボンニュートラルなど、これまで以上にエコロジーとエネルギーへの関心が高まる今、学生たちは何を知り、何を考え、何を語ったのでしょうか。密なコミュニケーションの機会を求めて結集した学生たちの3日間を振り返ります。
<ツアー概要>
- 日程:2023年2月15日(水)- 2月17日(金)
- 参加者数:学生19人
- 場所:横浜研修センター
<ツアーの目的>
- エネルギー・環境問題の今を知り、未来に向き合おう
- 知る、聞く、話すー学びを発信する楽しさを実感しよう
- 多様性と共感、主張と合意を体験しよう
<全参加学生のニックネーム>
- しょう
- みつき
- よっちゃん
- ひょう
- はなちゃん
- コボちゃん
- ゆみ
- いのくん
- なかじま
- おおちゃん
- かっしー
- おかっち
- うえもっち
- まピコ
- リョック
- まるくん
- ようたろう
- まっきー
- かい
<スケジュール概要>
1日目:
- ワークショップ「エネルギー大臣になろう!」
- 地熱開発パネルディスカッション
- 発電の基礎
- 講義「エネルギーをめぐる環境と世界」
2日目:
- 磯子火力発電所見学
- 三渓園でのエクスカーションツアー
- 寸劇「『横浜方式』から学ぶ課題解決」
- 講義「カーボンニュートラルに向けた取り組み」
- 講義「エネルギーをめぐる最新事情」
- ダジックアース体験
3日目:
- 講義「科学技術コミュニケーション概論」
- グループワーク「行動化への計画づくり」「具体化へのディスカッション」
- まとめ「わたしたちの船出」
積極的に対話し、みんなで作るツアーのはじまり
会場の横浜研修センターにやってくる学生たちひとりひとりを、笑顔で出迎えたJ-POWERの多比良重誠氏(しげさん)からの挨拶でプログラムはスタートしました。
しげさんは「初対面ですがリラックスして積極的に対話や交流を楽しんでください。自分なりの“お土産”を持ち帰ってもらえたらうれしいです」と感慨深そうに学生たちの顔を見渡し、3年ぶりの対面ツアーの開会を宣言しました。
3日間の進行役は、エコ×エネ体験プロジェクトの協働パートナーである研究者集団「サイエンスカクテルプロジェクト」代表の古田ゆかり氏(ゆかりん)です。ゆかりんは、「良く聞こう」「たくさん考えよう」「たくさん話そう」「みんなで作るツアー」「どんな社会をつくるか」の5つのカードを掲示し、学生たちに3日間の基本方針と心構えを伝えました。
学生たちが早く打ち解けるために行われた最初のプログラムはアイスブレイクです。どこから来たのか声を掛け合い確かめると、秋田県、島根県や広島県など日本各地から集まっていることがわかりました。そして全員で立ち上がり、お互いの共通点を話しながら5つのグループに分かれました。このチームで次のプログラムの「エネルギー大臣になろう!」に臨みます。
カードゲーム「エネルギー大臣になろう!」でエネルギー政策を体験
カードゲーム「エネルギー大臣になろう!」は、サイエンスカクテルの永井智哉氏(ともやん)が進行役を務めました。ゲームの前にJ-POWERの山本有希氏(やまゆき)から電気についての講義が行われ、電気の特性や、大量に貯められないという課題、安定供給には発電方法の組合せや需給調整が大切なことが伝えられました。
「エネルギー大臣になろう!」では、安全性(Safety)を大前提に、安定供給(Energy Security)=自給率、電力コスト=経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)という「S+3E」がキーワードとなります。まず、それぞれのグループが仮想の「国」となり、先進国、資源国などの国タイプを、国カードを引いて決めます。次に資源や経済事情も異なる中で優先政策を決め、決められた予算を使ってさまざまな発電所を建設。電気料金・環境負荷・稼働率・自給率という4つの点数と合意形成、国民満足度を競って勝敗を決めます。さらに、技術革新や戦争、地震、気候変動などのアクシデントカードが勝敗に大きな影響を与えます。各グループは、活気あふれる話し合いを重ねて政策を見直していきました。
ゲーム終了後、ともやんは「S+3E」の実現に向けて、さまざまな発電方法を組み合わせる大切さを説明しました。また、時代の移り変わりとともに発電方法や電力需要も変化してきたことや、今後の脱炭素に向けた政策や水素技術の現状など、過去から未来につながる話も展開しました。J-POWERグループの元社員で髙倉環境研究所代表の髙倉弘二氏(ドクター)からは、バイオマス燃料において、植林と伐採の時間軸の関係から生態系に与える影響などの視点が紹介され、再生可能エネルギーにもメリットとデメリットが存在する可能性が指摘されました。
昼食後の「エネルギー大臣になろう!」の振り返りタイムでは、特に日本を仮想としたグループ「ケニア」が注目されました。資源をもたない国がエネルギーミックスに臨みましたが、結果は最下位に。「うまくやったつもりなのに…」という学生たちの声がリアルに響きました。サイエンスカクテルの岩城邦典氏(イワクニ)は「常にアンテナを張って、未来の技術がどういう方向に向かっていくかを予測することも重要」と指摘し、ゆかりんは「現実の複雑さ、立場による見方や考え方の違いを実感してほしい」とゲームの意図を伝えて、学生たちに問いを残しました。
地熱発電開発のパネルディスカッションを通じて合意形成の課題を知る
次は、磯子山温泉という架空の古い温泉街に地熱発電開発の話がもち上がった…という設定のパネルディスカッションから合意形成の課題を知るプログラムです。まずは地熱発電の仕組みを知るために、J-POWERが運営する宮城県大崎市の鬼首地熱発電所の360度映像を視聴しました。地熱発電は発電中にCO2をほとんど排出せず、太陽光や風力のように天候に左右されずに1日24時間、1年を通して安定的な運転が可能です。今後は純国産の再生可能エネルギーとしての利用拡大も期待されています。
架空の温泉街、磯子山温泉での地熱発電所建設の是非を議論するという設定の疑似パネルディスカッションでは、エコ×エネのスタッフが、ファシリテータ、温泉組合長、温泉組合の若手女将、環境保護活動家、地元の商工会議所の理事、地熱発電の技術者に扮して話し合いをする場面を演じました。温泉の枯渇や風評被害による観光業への打撃、環境への影響の危惧、ビジネスや純国産エネルギーのメリット、データによる安全性の主張など、立場の違いからお互いの意見はかみ合わずに終わりました。
学生からは「それぞれ建設の反対と賛成という結論ありきで対立が続き合意形成の道筋がみえなかった」「一緒に地熱発電所を見学して実際を知ることが必要」といった意見が出ました。ゆかりんは、現実の社会にもこうした場面が存在するかもしれず、互いの立場の理解やきめ細かい話し合いが大事であることを学生に伝えました。
実験を通じて「火力発電の基礎」を楽しく理解
続いては、明日の磯子火力発電所見学に備え、ドクターとやまゆきが火力発電の仕組みを実験。火力発電所では石炭・石油・天然ガスといった燃料を燃やして蒸気を作り、その蒸気を受ける羽根車をもつタービンを回し、つないだ発電機で発電しています。この基本的な原理は「電流・磁界・力」のフレミングの法則。コイルの中を磁石が動いて電磁誘導で電気が起きる仕組みです。太陽光発電と燃料電池以外のすべての発電はこの原理を応用しています。
次に発電の過程で発生したCO2を回収・貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の仕組みを実験。溶剤でCO2をキャッチして吸収、液化し天然ガス田等(貯留層)に送り込み保存します。ドクターは石油や天然ガスがある貯留層をチョコレートコーティングの駄菓子に見立て、キャップロックという遮蔽層がチョコレートの部分にあたると説明しました。
しげさんの「エネルギーをめぐる環境と世界」の講義で日本と世界を知る
続いてしげさんによる「エネルギーをめぐる環境と世界」の講義です。世界のエネルギーの状況を解き明かします。特にロシアによるウクライナ侵攻で資源価格が高騰、電気料金をはじめ食料品などの物価が上昇しました。日本では電力需給のひっ迫も生じています。
日本では、水力・太陽光・風力などの再生可能エネルギーを増やす計画も立てられており、近年では太陽光が急伸するも、時間や天候に左右されるためコントロールが難しいといいます。電力の安定供給のためには、電源構成を組み合わせることは必須ですが、新しい発電所の建設には地域の人々の理解が必要で、日本には欧州のような国際連系線がなく、地域をまたぐネットワークが脆弱という課題もあります。日本では2050年に向けてエネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの両立に向け、炭素燃料から水素燃料への転換や水素社会実現に向けた取組みが始まっています。
エネルギーはSDGsとも密接に関連しています。平和で豊かな社会と気候変動問題への対応をいかにして両立するか。水・食糧不足、貧困、教育、ジェンダー平等など、エネルギーで解決が可能な目標もあるといいます。「エコ×エネ体験プロジェクトでは、エネルギーと環境の共生、持続可能な社会の実現に向けて、社会課題に関心をもち、自分事として行動できる人が増えていくことを目指しています」と、しげさんはツアーに込められている思いを語りました。
大量にインプットした1日目の振り返り
初日の振り返りでは、学生から、「エネルギー事情もこんなに変わったのかと思った」「エネルギー問題が自分事になってきた」などの声があり、問題意識の高まりや学んで行動することの大切さを感じているようすがありました。
夕食後は、自分が学んでいること、関心をもっていること、好きなことを、ひとりずつ自己紹介する時間です。参加した学生の専攻は、法律や政治、理工など分野もさまざま。その後の自由交流会でも全員が残り、映画、お笑い、運動など趣味の話で盛り上がり、笑顔と話す声が絶えない賑やかな雰囲気に包まれていました。
1日目の終了後、参加した学生3名に感想を聞きました!
「学生同士語り合う、当たり前のことができて嬉しい」コボちゃん
2019年にエコ×エネ体験ツアー水力編に参加してから、火力編の対面開催の再開を心待ちにしていました。コロナ禍でさまざまな機会を失い、当たり前のことが当たり前ではなくなった経験をしてきた学生時代なので、こうして学生同士で集まって話すこと自体がとても嬉しいです。環境問題について話せる仲間は大学内に多数いるわけではないので、同じ興味をもつ学生たちに出会えて貴重な時間でした。
「自分がエネルギー政策を考えたことが新鮮」まっきーさん
曾祖母が3. 11の原発事故を経験したことからエネルギー問題に強い関心をもつようになりました。大学ではエネルギーや環境などのテーマを議論する機会があまりなく、同じことに関心をもった人と出会えると考えツアーに参加しました。カードゲーム「エネルギー大臣になろう!」で、自分が実際にエネルギー政策を考えたことが新鮮でした。初対面のチームメンバーと話し合って合意形成していく過程はとても良い経験でした。
「環境に関心のある仲間と出会えた」しょうさん
大学では環境サークルの代表をしています。環境問題に興味をもったのは森林に関係した父の仕事について小さいころからたくさん話をしていたことが影響していると思います。2022年夏にオンラインで開催されたエコ×エネ体験ツアー水力編に参加し、対面ツアーに参加したくて夜行バスでやって来ました。エネルギーや環境だけでなく、法律を学ぶ学生も多く、議論できる仲間と出会えてたくさん話ができて良かったです。