大学生向け 火力編@磯子ツアー レポート

エコ×エネ体験ツアー 火力編@磯子学生ツアー 2023年ツアーレポート

2日目 9:00

地域環境に配慮した石炭火力発電「磯子火力発電所」を見学

2日目の朝。学生たちは揃って元気に朝食を済ませ、磯子火力発電所に向かいバスで移動。実際に電気がつくられている現場に潜入し、火力発電所の大きさを実感したり、仕組みを理解したり、環境対策の取組みを肌で感じたり、働く人の思いを聞く、1日目の座学とは違った「実体験」が詰まったプログラムへと進みます。

2日目の朝。朝食を食べ、磯子火力発電所に出発します
2日目の朝。朝食を食べ、磯子火力発電所に出発します

2チームに分かれてまずは模型を展示しているPR施設「ISOGOエネルギープラザ」で発電所の全体像を把握しました。J-POWERの磯子火力発電所は1967年に旧1号機、1969年に旧2号機が運転開始。1950年代から60年代に石油へのエネルギー転換が進む中、国内の石炭産業を保護する国の政策を受けて、石炭火力発電所の建設を進めました。その後、大規模なリプレイスを実施し2002年に新1号機、2009年に新2号機が運転開始。エネルギー効率を当時の世界最高水準にまで高め、発生するCO2や窒素酸化物、煤塵なども、環境への負荷を最小限に抑え、日本のクリーンコールテクノロジーを象徴する発電所となりました。

ISOGOエネルギープラザ 竹藤館長の挨拶から発電所の見学がはじまりました
ISOGOエネルギープラザ 竹藤館長の挨拶から発電所の見学がはじまりました
建屋も地域の景観を配慮した配色になっています
建屋も地域の景観を配慮した配色になっています
タービンを蒸気で回して発電します
タービンを蒸気で回して発電します
学生たちはとても熱心に説明に聞き入っていました
学生たちはとても熱心に説明に聞き入っていました

磯子火力発電所では、海外から輸入した石炭を、東京湾内にあるコールセンターに荷揚げし、セルフアンローダー船で発電所まで運び、船着き場からベルトコンベアで石炭を貯めるサイロに運んでいます。その石炭は細かく砕いてボイラーで燃やし、その熱で作られた高温高圧の蒸気でタービンを回して発電機で電気をつくっています。

ボイラー建屋の屋上からは発電所の全景が見渡せました。石炭をサイロに運ぶベルトコンベアは密閉式のチューブ内に格納し石炭の飛散を防止。ベルトを空気で浮かせることによって振動や騒音を減らす工夫もされていました。また煙突を真上から見た断面の形状は楕円形、空に馴染む配色で、近隣にある日本庭園「三渓園」から望む景観に配慮されています。発電所のリプレイス時に環境や緑化に従事していたドクターによると、この景観の問題により建設の同意が得られないところまで追いつめられていたといいます。

空になじむ楕円形の煙突が印象に残ります
空になじむ楕円形の煙突が印象に残ります
見学当日はとても天気に恵まれて富士山がはっきりと見えました
見学当日はとても天気に恵まれて富士山がはっきりと見えました
青い海、空色の煙突と一緒に記念撮影
青い海、空色の煙突と一緒に記念撮影

運転センターでは24時間365日、電気の安定供給のために発電機の出力や蒸気の温度、排ガスの濃度などを運転員が監視しています。また窒素酸化物などの濃度の情報は横浜市にも転送されています。学生たちはボイラーの中を覗き、石炭が燃えるようすと顔に感じる熱さに驚いていました。環境対策のための集塵装置・乾式排煙脱硫・脱硝装置も確認し見学は終了しました。

発電をコントロールする「運転センター」を興味深く見学する学生たち
発電をコントロールする「運転センター」を興味深く見学する学生たち
竹藤館長が、発電所内の仕組みを普段の業務の内容を交えて説明しました
竹藤館長が、発電所内の仕組みを普段の業務の内容を交えて説明しました
柴崎業務推進役の説明を聞きながら、学生たちは熱心にメモをとっていました
柴崎業務推進役の説明を聞きながら、学生たちは熱心にメモをとっていました
ボイラーを覗くと、炎が巻くように燃えているのが確認できました
ボイラーを覗くと、炎が巻くように燃えているのが確認できました
環境対策に欠かせない乾式排煙脱硫装置
環境対策に欠かせない乾式排煙脱硫装置
大きな脱硫装置を見上げ、環境に配慮しながら電気がつくられる現場を実感しました
大きな脱硫装置を見上げ、環境に配慮しながら電気がつくられる現場を実感しました

生活を支える火力発電所を見学し、その仕組みをリアルに感じた後は、そこで働く“人”の思いに触れる時間です。年齢の近い若手社員たちとの交流では、働くとはどんなことか、どうしてこの仕事を選んで、どんなやりがいを感じているのかを率直に聞ける貴重な機会となりました。

業務グループの髙木大地さん(事務)は入社2年目で経理に従事し、事業所全体の予算管理をしています。毎月の請求処理の金額は億単位で件名もたくさんあり神経を使うとのことでした。髙木さんは、電力業界は人々の“当たり前”を支えるのはもちろん、安心を届けている、そこに魅力を感じているそうです。急遽、予算を集める必要がある場合は緊張が増し、会社内外の人とのやり取りも大事だと感じているといいます。

運用グループの上原大知さん(技術)は入社4年目。発電所の中に流れる海水の配管が詰まるのを防止するボールに付着した貝を取り除く「貝・ボール分離装置」による清掃の日程や工程、安全に作業ができるための準備をする仕事に従事しています。トラブル時には、委託会社への緊急の依頼もあり、日頃のコミュニケーションが大事になるといいます。

運用グループの濱郁夫さん(技術)は入社6年目。4年前のエコ×エネ体験ツアーでは案内役として参加していました。4年前は実際に運転センターでオペレーターを務め、現在は技術職でさまざまな修繕計画を立て、メーカーとのコミュニケーションから社内への橋渡し的な役割を担っています。発電所は建てて終わりではなく、設備をアップデートしてケアをしていくところに魅力を感じているといいます。

磯子火力発電所で働く若手社員のお話を伺いました。左から、濱さん、上原さん、髙木さん
磯子火力発電所で働く若手社員のお話を伺いました。左から、濱さん、上原さん、髙木さん

ゆかりんが「みなさんのお話を聞くと、自分が所属する部署はもちろん、社内の他部署や他社との関わりがあり、多くの人がひとつの仕事に関係してくることがわかります」と話すと、学生たちは大きくうなずき、仕事への責任とコミュニケーションの大切さを感じているようすでした。

2日目 11:20

三渓園から磯子火力発電所はどう見える?

次にバスで三渓園に向かい、園内の鶴翔閣楽室棟で昼食をとり、休憩を挟んで午後のワークに臨みます。休憩時にはドクターによるエクスカーションツアーが開催されました。三渓園と磯子火力発電所は関係が深く、園内を歩くと山と山の間に磯子火力発電所の煙突がかすかに見え隠れします。ドクターが、磯子火力発電所のリプレイス時に三渓園の景観を維持するため、築山を作って10mの木を植えた場所へ案内。「築山を作ったときには明らかに違和感がありましたが、今は時間の経過とともに自然の力で周囲の景観になじみました。自然の力はすごい」とドクターは振り返りました。その後、展望台を上がって、海側の工業地帯に磯子火力発電所を確認。ドクターによると、景観は見る人によって視点も異なり、緻密にシミュレーションした結果、煙突の形状や建屋の配色も配慮されたとのことでした。

バスの中でも学生たちは和気あいあい。楽しさがはじけていました!
バスの中でも学生たちは和気あいあい。楽しさがはじけていました!
良く晴れた美しい三渓園で記念撮影。みんな明るい表情です
良く晴れた美しい三渓園で記念撮影。みんな明るい表情です
鶴翔閣楽室棟で昼食をとる学生たち
鶴翔閣楽室棟で昼食をとる学生たち
ドクターがガイドして三渓園から見える磯子火力発電所の煙突を確かめました
ドクターがガイドして三渓園から見える磯子火力発電所の煙突を確かめました
土を盛って築山を作り10mほどの木を植え、三渓園の景観を守りました
土を盛って築山を作り10mほどの木を植え、三渓園の景観を守りました
三渓園の展望台からは、空になじむ磯子発電所の煙突が見えます
三渓園の展望台からは、空になじむ磯子発電所の煙突が見えます

鶴翔閣楽室棟に戻って、学生たちは「今日、知ったこと、驚いたこと」をアウトプットしました。「技術と社会貢献の組合せ」「煙突の色は空の色」「大企業でも事業のすべてを自分たちでやっているわけではない、他企業との協力が重要」という本質を捉えた声があがりました。

磯子火力発電所の見学や若手社員との交流、ドクターのエクスカーションツアーで感じたことをみんなで伝え合いました
磯子火力発電所の見学や若手社員との交流、ドクターのエクスカーションツアーで感じたことをみんなで伝え合いました
2日目 14:00

寸劇『横浜方式』から学ぶ社会課題の解決

続けて、磯子火力発電所と横浜市の環境保全に向けての取組み「横浜方式」の寸劇です。磯子火力発電所の建設には、J-POWERと行政、地域住民の間にさまざまなことが起きていましたが、その経緯を寸劇「横浜方式」としてドクターが演出し、学生が演じました。

高度経済成長期に移行した日本は、安価な石油による発電にシフト。戦後復興を支えた国内の産炭地である北海道や九州は地域経済が疲弊して構造的な不況になりました。国会で産炭地振興の法律が成立し、東京電力や電源開発には横浜市をはじめとする石炭火力発電所の建設が国から要請され、建設計画は進んでいきました。その一方で、大気汚染などの公害による健康被害への危惧は高まり、横浜市の医師会や商店会、婦人会は対策の必要性を横浜市長に訴えました。当時の飛鳥田横浜市長は、予定地の転貸しには横浜市の同意が必要なことから、学識者の協力を得て環境対策14項目の要望案を作成。建設後も市と公害防止協定を結び、市が監督指導できるよう東京電力や電源開発の協力を求めました。行政と企業が直接、公害防止協定を締結し、環境保全・公害防止に取り組む方式は、当時は例がなく、それより「横浜方式」とよばれて全国に広がっていったのです。

婦人会による子供への健康被害の危惧を訴える姿を「おかっち」が熱演!!
婦人会による子供への健康被害の危惧を訴える姿を「おかっち」が熱演!!

寸劇では、当時のそれぞれの立場からの訴えや考えを、学生自身が自分事として理解するきっかけが得られました。学生は臆せず、それぞれの役になりきって、大きな笑いも巻き起こし、まるでラジオ名作劇場のような仕上がりとなっていました。ゆかりんは「このできごとは、横浜市のその後の環境行政に影響を与えました。地域で何があったかを知ってほしいと思います」と結びました。

ドクターとともに「横浜方式火力発電所シナリオ」に挑んだ9人の学生たち
ドクターとともに「横浜方式火力発電所シナリオ」に挑んだ9人の学生たち
2日目 15:00

「技術者の目」からカーボンニュートラルを実現する新技術の動向を知る

次に大崎クールジェン元社長、相曽健司氏による講義「技術者の目」です。相曽氏はJ-POWERで国内外の発電所の計画や建設の仕事に従事し、瀬戸内海の広島県大崎上島にある「大崎クールジェン」という、石炭を使いながら脱炭素を目指す技術を実証する国家プロジェクトの社長の重責も担いました。まず現在の超々臨界圧による石炭火力発電の仕組みや、石炭ガス化複合発電「IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle)」ではエネルギーロスが少なく、CO2を分離・回収できるという特徴があることを説明。さらに木材や下水汚泥等からバイオマス固形燃料を作って混ぜることでCO2はさらに削減され、最終的にはCO2の排出がマイナスになる処理に向けて技術開発が進んでいくと話しました。

また石炭は貯蔵性に優れ安定的に調達できるメリットがあり、日本の石炭の活用はエネルギー政策では重要な位置付けとして捉えられ、将来的には燃焼により発生したCO2を地中に貯留する技術も進み、さらに、カーボンリサイクルの技術として、バイオジェット燃料やコンクリート、ペットボトルの原材料等で利用することも考えられていると話しました。

大崎クールジェン前社長の相曽健司氏が、脱炭素の技術開発の現状と展望を解説しました
大崎クールジェン前社長の相曽健司氏が、脱炭素の技術開発の現状と展望を解説しました

さらに日本が独自に開発してきた「ガス化炉」の仕組みを詳しく説明。こうした石炭のガス化を起点にした大崎クールジェンの実証試験では今、CO2分離・回収と燃料電池を組み合わせるフェーズが並行で進み、商用化が間近であるといいます。オーストラリアの褐炭*から水素を作って日本に運ぶ実証試験やバイオマス、アンモニアを利用する技術開発にも話は及びました。
*褐炭 : 水分が多く熱量も低い為、ほとんどが未利用資源となっている

相曽氏は、日本の特殊性を背景にしたエネルギーミックスの考え方にも触れ、エネルギー転換での技術継承の重要性も指摘しました。今後は、さまざまな業界がつながって「脱炭素」を実現することが大事だと語りました。

2日目 16:05

エネルギーをめぐる日本と世界の最新事情を知る

BUSINESS INSIDER JAPAN記者・副編集長の三ツ村崇志氏による「エネルギーを巡る最新事情」では、エネルギー関連で取材した数々の事例が紹介されました。まず2020年10月26日の菅元首相の所信表明演説で公式に日本がカーボンニュートラルを宣言したことで、脱炭素をビジネスとして現実に考える企業が数多く動き出したといいます。

カーボンニュートラルの実現に向けては、さまざまな業界から幅広く脱炭素を目指す動きが必要となります。再生可能エネルギーは供給の安定性に課題があり、受け入れるシステムや法整備も重要となります。三ツ村氏が紹介した事例では、新しい洋上風力発電、再生可能エネルギーの余剰電力を活用する取組み、天候を予測し太陽光発電に生かす取組みなど、興味深い話が数多くありました。

最新のエネルギー事情に詳しいBUSINESS INSIDER JAPAN記者・副編集長の三ツ村崇志氏
最新のエネルギー事情に詳しいBUSINESS INSIDER JAPAN記者・副編集長の三ツ村崇志氏

またこの先の技術については特に「水素」に焦点が当たっており、欧米を中心にコンセンサスが取れているので、今後はさらに発展していくといいます。日本でも実証試験を行っており、ルール作りで日本が主導権を取れる可能性があると三ツ村氏は説きました。「核融合」「SAF(Sustainable Aviation Fuel)」「アンモニアの新しい製造技術」なども紹介し、ビジョンを掲げて技術をもつ企業に資金が集まる現状が話されました。

最後に三ツ村氏は学生に向けて「脱炭素に向けて、自分は何かできないかといった関わり方への覚悟は、今の20代、30代の人たちは考えないといけないと思います。社会がどう成り立っているのか、ビジネスとしてどう関わっているのか、そこにはどういう理由があるのかと解像度を高めれば、自分はこのポジションが良いと腹落ちできるのではないでしょうか」と伝え講演を締めくくりました。

2日目 19:20

地球を丸ごと俯瞰できる「ダジックアース」を体験

横浜研修センターへ戻り、夕食後は、イワクニによる「ダジックアース」の体験です。ダジックアースとは、プロジェクターで球形のスクリーン上に地球や惑星を映し出すもので、今回、火力編のためにカスタマイズしたプログラムで太陽系の惑星の特徴、地球での人類の歴史を辿り、人類がどのようにエネルギーを使っているか地球を俯瞰して見て、温暖化効果ガスの状況、森林を広げる大事さ、窒素酸化物の多い地域などが紹介されました。さらに風や海流の動きも映し出してエネルギー活用のヒントも提示しましたが、電源として有望でも、それを支える送電や発電設備、法整備に課題があることも指摘されました。イワクニが「エネルギーを効率よく活用するために、情報を得るツールを駆使して、これからの地球の未来を考えることが大切」と語る中、学生たちは未来に思いを馳せているようでした。

目の前に地球が現れる「ダジックアース」体験のようす
目の前に地球が現れる「ダジックアース」体験のようす
ダジックアースを用いてリアルタイムで地球の気流の状況を映し出しました
ダジックアースを用いてリアルタイムで地球の気流の状況を映し出しました

最後の夜は、すっかり仲良くなった学生たちが、自由交流時間が終わるまで、めいっぱい語り合っていました。

最後の夜、語り合い楽しい時間を過ごした学生とスタッフ
最後の夜、語り合い楽しい時間を過ごした学生とスタッフ

2日目も参加した学生3名に感想を聞きました!

左から、ようたろうさん、まピコさん、いのくん
左から、ようたろうさん、まピコさん、いのくん

「環境を学び、どう社会に貢献できるかを明確にしたい」まピコさん

犬を飼ったことがきっかけで動物愛護の分野に関心が生まれ、中学までは獣医になろうと思っていましたが、高校で生物多様性から環境分野に関心をもつようになり、このツアーに参加しました。昨日と今日の体験から日本のエネルギーの今ある姿、本質を捉えられるようになったと思います。また同年代の同じ興味関心のある学生や発電所の現場の人と話す機会を得られ、多くの気付きがありました。予定している留学で環境学を学び、さらにどう社会に貢献していけるかをもっと明確にしたいと思います。

「持続可能な発電だけで全世界の電気を賄う世界に」いのくん

小学校の理科の授業がきっかけで、自然や科学に関する本を読んで育ちました。その後、山登りやハイキングの経験から自然や環境を守りたいと考え、今も地球温暖化に対して大きな影響がある「発電」に関して学んでいます。このエコ×エネ体験ツアーは3年前から参加したいと念願していました。J-POWERの方に疑問にすぐに答えていただくのは、なかなかできない経験で、ドクターのバイオマスの話には衝撃を受けました。将来の夢は、核融合や地熱、風力などの持続可能な発電だけで全世界の電気を賄うことです。

「景観に配慮した発電所の設備に驚いた」ようたろうさん

ワールドワイドな資源分野が面白いと思い、今の大学に進みました。このツアーでは、自分が大学で学んだ知識を生かそうと思っていましたが、知識だけではなくコミュニケーションも大切だと気付きました。発電所の見学では、煙突が空の色で、デザインも楕円形で景観を意識していることがわかりました。カーボンニュートラルに向けて、石炭のイメージの悪さに少し悩んでいましたが、さらにカーボンを集める技術が発達すれば、石炭による発電も良いかもしれないという気持ちも出てきました。

  • ツアー1日目はこちら
  • ツアー3日目はこちら