エコ×エネ体験ツアー 火力編@磯子大学生ツアー 2020年ツアーレポート
エコ×エネ体験ツアーは、エネルギーとエコロジーの両方を大切にする社会の実現について体験を通じて学ぶ、J-POWER(電源開発株式会社)が2007年から開催している体験型のエネルギー環境教育プログラムです。「火力編」では世界最高水準の環境負荷低減とエネルギー効率向上を誇る磯子火力発電所を見学したり、エネルギー政策や科学技術とコミュニケーションについて学び、対話を通して考えを深めました。今年のツアーは新型コロナウイルス騒動の中での開催となりましたが、参加した学生たちにとっては刺激的な3日間となったようです。そこにはどんな発見があったのでしょうか。
<ツアー概要>
- 日程:2020年2月26日(水)-2月28日(金)
- 参加者数:学生26人
- 場所:磯子火力発電所(横浜市磯子区)、横浜研修センター(横浜市金沢区)
<ツアーの狙い>
エネルギーと環境の共生のために
- 日本と世界が直面するエネルギーに関わる課題と向き合う
- エネルギーに関する政策や技術に関心を持ち、主体的に考える
- さまざまな人と語り、未来の社会に向けて自らのビジョンを探る
<スケジュール概要>
1日目:
- カードゲーム「エネルギー大臣になろう!」
- 実験「火力発電の基本と石炭燃焼」
2日目:
- 潜入!ISOGOスコープ - 磯子火力発電所見学-
- 「横浜方式」から学ぶ
- SDGs時代のエネルギーミックスを考える
- Mitaka上映会
3日目:
- ディスカッション「社会課題と自分の関わりについて考える」
- まとめ~行動宣言「私たちの船出」
火力編@磯子大学生ツアー1日目
オリエンテーション(横浜研修センター)
二月末の冷たい雨の日。全国から26人の学生が横浜研修センターに集まりました。新型コロナウイルスの対策のためにマスクと消毒、そして体調管理を徹底しての開催です。
全体の進行は、サイエンスカクテルのゆかりん(古田さん)。「SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、このエコ×エネ体験ツアーもまさに、さまざまな社会課題に向かって真剣に考え行動できる力を持つ人たちが増えるようにと考えられたものです。いろいろな人と話して考える機会にしてください」とJ-POWERのシゲさん(多比良さん)からウェルカムのメッセージがありました。
お互いを知るためのアイスブレーク!グループに分かれて、お互いの共通点を見つけあいます。
電気の話 by キャップ
先ず、J-POWERのキャップ(藤木さん)から電気の基礎知識の紹介がありました。
「現在私たちにとって電気は使いやすく(簡単・便利)、クリーンで(薪や炭のように煙がでない)ものとなっています。電気を使ったツールも増え、ビジネスも生活スタイルも変化してきました。例えばガソリン車が電気自動車に変わるといった電力シフトも注目されています。電気には貯めておけないという特徴があり、蓄電池もまだまだ高くて重たく、社会のニーズを十分支えるものにはなっていません。火力や水力など、発電方法もいろいろありますが、それぞれの発電方式の特徴を知って、どうしたら経済的で、環境負荷も少なく、安定的に使っていけるのかを考えていくことが必要です」
エネルギー大臣になろう!
続いては、注目のカードゲーム「エネルギー大臣になろう!」。テーブルに分かれたグループのメンバーとともに、その国のエネルギー政策を考えるというものです。それぞれのテーブルには、その国の置かれた状況が書かれたシートが用意してあります。これを見ながら、国に応じたマニフェストを作成。経済性、供給安定性、環境負荷など何を優先するか決めることで、エネルギー政策を考えます。
第一ターンは、現在の設定で。そして第二ターンは2030年の設定で。未来にはエネルギー技術も進歩しているという前提が入ります。このゲームにはイベントカードというものがあります。世界規模、そしてそれぞれの国において予想外のイベントが起こり、それが各国の電源のパラメーターに影響を及ぼすのです。そのイベントとは、例えば「反対運動」「発電所テロ」「資源枯渇」「技術革新」といったもの。追い風も期待されますが、リスクにも強い政策であることも考慮に入れる必要があります。
- 「一つの発電方式に頼り過ぎちゃうと、イベントが起きた時に一気にダメになってしまうかもしれないからリスクを分散しようか」
- 「どの発電所を建てるかで料金とか環境負荷とかが変わってくるから、どれを優先にすればいいかを考えるのが難しいなあ」
- 「実際の社会ではもっと複雑な状況があるし、合意を取りつけるのはすごく大変だと思う」
解説:エネルギーと環境にかかる世界と日本の実情
お昼の後は、J-POWERのヨーコバ(小林)さんから、日本と世界のエネルギーと環境の実情の解説。 エネルギー政策では経済効率性(Economic Efficiency)、安定供給(Energy Security)、環境への適合(Environment)の3つのEに加え、安全性(Safety)のS(3E+S)の観点が大切です。太陽光や風力のように自然条件に左右されるもの、石油のように中東情勢に影響されるものなど、発電方式による特徴やリスクを理解したエネルギーミックスが必要なこと。日本が得意とするエネルギー効率を高め環境負荷を低減する技術が必要とされていることなどを、「目から鱗?!」の各国のエネルギー事情の紹介とともに学びました。
ヨーコバから知識を得たあとは、グループでゲームを振り返ります。
「自国の結果を交えてゲームをして感じたことは」
「今後のエネルギーを考える時、どんなことに目を向ける?」
「今後のエネルギーのあり方について考えるポイントは何?」
- 「人の生活と地球の未来をどう折り合いをつけるか。バランスが難しいですね」
- 「信頼できるデータを使ったり、歴史から学ぶことも大事だよね」
- 「もっと未来のことにも目を向けて考えていく必要があるなー」
- 「世界規模で考えて、国同士の役割分担も大事だと思った。それぞれの国の強みをいかした取り組みをお互いができるといいよね」
- 日本のエネルギー自給率は低い。原発や石油石炭を使うことも大事だし、国際的には批判されるかもしれないことは、うまく折り合いをつけていくことも必要だと思った」
- 「国レベルでも、市民レベルでも、合意形成をどうしていくかが、重要になってくると思う。どういう負担を受け入れていくのか、合意していく必要がある」
パネルディスカッション
「磯子温泉に地熱発電?!」合意形成はなるか?
実際に発電所を建設するにあたっては、どんな議論が起こるのでしょうか?地熱発電建設計画に沸く架空のまち「磯子温泉街」を舞台に、さまざまなステークホルダー(利害関係者)が対話しているという設定のパネルディスカッションから考えてみました。
登場するのは、温泉旅館の組合長と若手経営者、国立公園で働く環境保護活動家、まちおこしに取り組む地元の商工会議所職員、そして地熱発電開発技術者。地熱発電をつくることによる湯源への影響や事故リスクの心配、地熱発電を地域の活性化の目玉にしたいという声、自然環境を壊すので環境にまったく良くないという反対の声、技術的には問題ないから進めたいという声…。実にさまざまな意見が飛び交います。
司会 「そろそろ意見が出尽くしたようですので、この辺で多数決ではどうでしょう?」
全員 「えーーーーーーーっ!!!」
思わず笑ってしまいましたが、実際にはとても重要で難しい問題です。リアリイティのある設定とパネリスト役のスタッフの熱演を通じて、多くの考えるべき視点を得ました。
- 「それぞれの立場の人が自分にとって都合のいいことしか言わないと、本当のリスクが何かがちゃんと表現されなくなりそう」
- 「現実社会では(社会的に)力を持った人が決めるのだろうなと思った」
- 「地域に暮らしていない外部の専門家の意見で決めるのはよくないと思う」
- 「冷静に話しあえるように、過去の事例や事実情報などの共有が必要だと思った」
- 「リスクといいことと両方の事例を知ることが役立つ」
実験「火力発電の基本と石炭の燃焼」
続いては、ドクター(髙倉さん)とやっさん(河野さん)による実験コーナー。「皆さん、電気のできるしくみは知っていますか…?」明日の火力発電所見学に備えて基本的な知識を確認します。
「運動エネルギーが電気エネルギーに変わる上で覚えておきたいのは、電流、磁界、力の関係を示す『フレミングの法則』です。石炭を燃やした蒸気で発電機を回転させてタービンを回す石炭火力発電では、タービンの性能によって発電量が異なります。化石燃料の燃焼で発生するCO2の対策として、注目されているのがCCS(炭素隔離貯留技術:Carbon Capture and Storage)。日本では海底に貯留する研究も進んでいるのです」
自己紹介タイムとふりかえり
- 知識と体験の両方を通じて、短い時間ですごく多くのことを学んだ一日だったです
- 興味の近そうな人たちがいると気づいたので、3日の間にもっと話したいと思いました
- 石炭を燃やしたのを初めてみて新鮮でした
- エネルギーを考えるときにあまり考えたことがなかったけれど、発電所をつくるときの合意形成は重要なことだと思いました