しなやかな変革が紡ぐ 晴れやかに生きる社会
幸村 潮菜
Opinion File
女性のニーズに寄り添い確かな技術で応える
広告やスポンサーへの忖度(そんたく)は一切なし、専門家による徹底した検証で商品を評価することで知られる某情報誌で、2025年の「ベストバイ オブ・ザ・イヤー」に輝いた白髪染めカラートリートメントがある。「アルガネーゼ オイルインカラートリートメント」という商品だ。自然な仕上がりや艶ケアを考えた成分設計、なめらかな使用感が絶賛され、並み居る大手化粧品メーカーの競合品を抑えて栄冠を手にした。
この商品の成り立ちは、少々異色だ。ドラッグストアで大々的に展開されていたわけでも、莫大な広告費を投じて知名度を高めてきたわけでもない。元々は生活協同組合(以下、生協 ※1)の組合員向けに開発され、生協とECモールという限られた販路で販売されてきた商品なのだ。
開発したのは株式会社ウィルミナ。創業から40年以上にわたり、生協向け化粧品の企画・開発・販売を手がけてきたファブレス企業(※2)だ。1984年にニチメン(現・双日)の化学部門が立ち上げた化粧品事業を前身とし、2016年にスピンアウトして誕生した歴史を持つ。
「全国に約3,000万人の組合員を抱える生協マーケットで、私たちは化粧品のトップベンダーとして商品を提供しています。生協は厳しい品質・安全基準を設けていることで知られていますが、当社は長年にわたり、その基準に応えるものづくりを続けてきました。イメージや広告だけでは選ばれない環境だからこそ、お客様に納得していただき、長く使い続けていただける商品を追求しています」
そう語るのは、同社代表取締役社長の幸村潮菜(ゆきむらしおな)さんだ。生協の組合員の多くは50代以上の女性たち。そのため、ウィルミナの商品開発もこの世代の女性のニーズに深く寄り添うものとなっている。アルガネーゼもその一つだ。働く女性が増える中、白髪染めのために美容院へ通う時間や費用を軽減したい。そんなニーズをもとに生協で販売し、ECサイトへと展開したところ幅広い支持を集め、今回の高評価につながった。
「人生100年時代といわれる今、50歳はまだ折り返し地点にすぎません。私たちは、年齢を重ねた女性たちが抱える様々な課題に向き合い、商品やサービスを通じてその解決をサポートしたいと考えています。女性たちが自信を持って社会とつながり、自分らしく生きるための〝ハブ(hub)〞でありたいと思っているんです」
その思いは、ウィルミナの企業活動の根幹につながる。女性が自分らしく、晴れやかに生きる社会をつくる――それが、同社が掲げるビジョンだ。
能力が正当に評価されるフェアな会社を目指して
しかし、このビジョンにたどり着くまでには、紆余曲折の物語がある。幸村さんがウィルミナに参画したのは2021年。ファンドからの招聘(しょうへい)を受け、売上と利益の向上、そして組織変革という重責を担い、翌年に代表取締役社長に就任した。着任当初、幸村さんは組織図を見て強い違和感を覚えたという。
「管理職はほぼ全員が男性で、女性の管理職は課長が一人だけでした。それがすぐにわかったのは、女性の名前がわざわざ赤字で表記されていたからです」
長年、総合商社の子会社として安定した収益基盤を築いてきた一方で、その組織風土は男性優位の価値観が根強く残っていた。東京・中央区の聖路加タワーにあった本社オフィスも、窓側に部長席が並び、部下たちが向かい合って座る典型的な「島型レイアウト」(※3)で、上下関係が可視化された空間だった。
そこで幸村さんが着手したのが、働く環境そのものの見直しだった。スタートアップの居抜き物件への移転を決断し、社員自ら家具購入や入居前の清掃を行い、「DIY」でオフィスづくりを進めた。従来の島型デスクは撤廃され、全席フリーアドレスへとアップデートされた。
ハード面での改革は順調に進んでいったが、人の心を一朝一夕に動かすことは難しい。幸村さんが着任した当初、社内には戸惑いや警戒感も少なくなかったという。
「今でも覚えていますが、当時は誰も目を合わせてくれないような雰囲気でした。まずは社員一人ひとりと対話することから始め、一緒に会社をアップデートしていこうと伝え続けました。そうして少しずつ〝味方〞をつくり、経営チームを形成していったんです」
経営チームづくりと並行して進めたのが、会社のビジョンやミッションの再定義だ。外部講師も交えながら、「自分たちがこれまで培ってきたことは何か」、「本当に誇れることは何か」、「これから何を実現したいのか」を徹底的に議論し、分析を重ねた。こうして生まれた新たなビジョンのもと、社員の行動指針として「5 Values」(※4)を策定。業務への向き合い方や目指すべき姿を明文化するとともに、それらを評価項目に組み込んだ新たな人事評価制度の構築にも着手した。
「私が着任する前に評価制度について全従業員を対象にアンケートを実施したところ、9割以上の社員が何らかの課題を感じていることがわかりました。そこで、新たなビジョンの策定とともに、性別や社歴、役職ではなく、発揮した能力で正しく評価する制度に刷新しました。私たちが目指すのは、その人の努力や誠実さ、実際に生み出した価値が正当に評価されるフェアな会社です。『誰が言ったか』ではなく、『何を言ったか』で判断する。その判断基準をぶらさないことも大切だと考えています」
こうした改革は社員の意識変革にもつながり、場所や制約にとらわれず
にパフォーマンスを発揮できる環境が徐々に整備されていった。その結果、わずか2年で女性役員・管理職比率は31.6%から56.3%へと上昇。組織改革の成果が評価され、2025年には「東京都女性活躍推進大賞」(※5)を受賞した。
「『女性管理職比率を何%にする』といった数値目標を先に掲げていたわけではありません。性別にかかわらず、本人の努力や成果を公平に評価する仕組みを整えた結果、女性管理職の比率がすべてのレイヤーで自然に向上したのです」
こうした一連の取り組みは、もちろん女性だけを優遇するためのものではない。ジェンダーバイアス(※6)の解消によって、誰もがライフステージに応じた働き方を選択しやすくなり、現在では男性社員の育児休業取得も着実に進んでいる。


「きっと、できる!」 日本の中小企業へエール
着任からわずか数年で組織に変革の風を吹かせた幸村さん。その鮮やかな手腕の背景には、これまで歩んできたしなやかで強靭(きょうじん)なキャリアの軌跡がある。
創業期の楽天に入社、その後急成長するITベンチャーに転職し、自らスタートアップを立ち上げ、そしてプライム上場の半導体商社に転職――事業領域も組織の規模もまったく異なる道を歩んできたように見えるが、その根底にあるのは「課題解決をしたい」という一貫した思いだ。
「これまで、フェーズも企業文化も異なる様々な〝船〞に乗ってきましたが、振り返ると、私が担ってきた役割は『事業開発』という一つの領域に集約されます。もちろん、ビジネスとして利益を生み出すことは大切です。ただ、それ以上に、自分の人生の時間を使うのであれば、社会にとって意味があることに挑戦したいと思っているんです」
幸村さんにとって、ウィルミナはその思いを形にする絶好の舞台だった。日本企業の99%を占める中小企業の未来に、一つのモデルケースを示せるのではないかと考えたからだ。
「日本には、長い歴史や独自の商流を持ち、地域のエコシステムを支えている中小企業が数多くあります。一方で、かつてのウィルミナのように、優れた強みを持ちながらも時代の変化により、その真価を十分に発揮できていない企業も少なくないと思います。もし私たちが組織を変革し、マーケットを広げ、目に見える成果を生み出すことができれば、それは一企業の成功にとどまらないはずです。『私たちにもできたのだから、きっとできる』。そんなメッセージを、日本の中小企業に届けられたらと思っています」
ところで、なぜ幸村さんは、これほどの覚悟を持って変革の旗を振り続けられるのだろうか。その原動力を尋ねると、返ってきたのは意外にも「死生観」という言葉だった。
かつて半導体商社に勤務していた頃、楽天時代にメンターとして支えてくれた女性が、54歳1カ月という若さで急逝した。当時、幸村さんのもとにはウィルミナの経営を担わないかという打診が届いていたが、当初は断るつもりでいたという。しかし、身近な先輩の死が、その決断を大きく変えることになった。
「もし自分も同じ年齢で人生を終えるとしたら、残された時間は決して多くありません。自分の人生の時間をどこに使うべきかを真剣に考えたとき、リスクを引き受け、自らリーダーとして組織を変革するモデルをつくることに挑戦したいと思ったのです」
ウィルミナが見据える次なる挑戦は海外展開だ。ファブレス企業である同社の背景には、生協の厳しい品質基準に応えてきた何百ものOEMメーカー(※7)が存在する。ウィルミナが世界へ羽ばたくことは、彼らの優れた技術を世界に証明し、雇用や経営の維持に貢献することにもつながっていく。
幸村さん自身は、40歳からトライアスロンに挑戦しているそうだ。自分らしく晴れやかに生きる――そのビジョンを自ら体現するかのように、今日も全力で走り続けている。
取材・文/脇 ゆかり(株式会社エスクリプト) 写真/竹見 脩吾
KEYWORD
- ※1生活協同組合
消費者一人ひとりが組合員として出資金を出し、事業や活動の運営に参加し、利用する協同組織。食品や日用品の宅配サービス、福祉・医療サービスなどを提供する。 - ※2ファブレス企業
自社で工場を持たず、商品の企画・開発や販売に特化する企業のこと。製造は外部の専門メーカーに委託し、自社は企画や商品開発に注力することで、高品質な商品を追求することができる。 - ※3島型レイアウト
複数のデスクを向かい合わせに配置し、部署ごとに島のような形をつくる座席レイアウト。日本企業で広く採用されてきたが、部門を越えたコミュニケーションが生まれにくい側面もある。 - ※45 Values
ウィルミナがビジョン実現のために定めた行動指針。「違和感を兆しに。」「⾃ら未来へ。」「連帯を⼒に。」「探索、探求、挑戦。」「じぶんスタート。」の5項目で構成される。 - ※5東京都女性活躍推進大賞
女性の活躍推進に向けた優れた取り組みを行う企業や団体、個人を表彰する東京都の制度。先進的な取り組みを広く発信することで、誰もが自分らしく活躍できる社会の実現を目指す。 - ※6ジェンダーバイアス
性別によって特定の役割や能力などを無意識に決めつけてしまう偏見や先入観のこと。個人の能力や可能性を狭めるだけでなく、企業においては採用や昇進、人材活用に影響を及ぼす要因にもなる。 - ※7OEMメーカー
他社ブランドの商品を受託製造するメーカーのこと。発注企業の企画や仕様に基づいて製造を担い、商品は発注企業のブランド名で販売される。

PROFILE
幸村 潮菜
株式会社ウィルミナ代表取締役社長
ゆきむら・しおな
株式会社ウィルミナ代表取締役社長。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。楽天市場にてコスメ・ウェルネス・マタニティなどの女性向け商材の事業責任者を経て、デジタルマーケティングのスタートアップ経営に参画。その後は商社にてウェルネス領域・医療分野等への投資を伴う事業開発に従事。2022年から現職。Ernst & Youngが提供する、社会課題を解決しスケールアップを目指す女性起業家サポートプログラム「EY Entrepreneurial Winning Women™ Asia-Pacific class of 2024」日本代表。広島大学オープンイノベーション・アドバイザー。

