イラン戦争があぶり出したエネルギー革命と東南アジアの地政学
寺島 実郎
Global Headline
米国とイスラエルによるイラン戦争によって、世界は今、1970年代の石油ショックを想起させる事態に陥っている。日本も原油の調達先の多角化に奔走。米国や南米からの調達も検討している。
「掘って掘って掘りまくれ!」という米国トランプ大統領が進める化石燃料回帰の政策もあって、あたかも世界は再び、化石燃料の争奪競争の時代に突入しているかのように見える。
しかし、そればかりに目を奪われていると物事の本質を見誤ってしまう。その底流で2つの大きな世界的変化が起きていることに気づかなければならない。
一つは、エネルギー革命が静かに進行していること。ホルムズ海峡の事実上の封鎖にもかかわらず、同海峡を通過する原油が輸入量の約1割を占める中国が冷静に対応し、大騒ぎしていないのはなぜか。実は中国の発電設備容量35億kWの約6割が、太陽光・風力・水力の再生可能エネルギー(以下、再エネ)で賄われているからだ(2025年)。米国の正当性が失われていく中で、中国は原子力と再エネの分野で、脱炭素・脱石油時代を主導するリーダーになろうとしているようにも見える。
このような動きに共鳴したのが、OPEC(石油輸出国機構)から脱退したUAE(アラブ首長国連邦)だ。UAEは、世界第7位の産油国だが、再エネに力を入れており、同国では韓国製の原子力発電所も稼働している。OPECからの脱退は、世界のエネルギーの中心が石油から転換しようとしていることを象徴している。
もう一つの大きな変化は、これからの世界経済の成長エンジンとされるASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の米国に対する姿勢だ。
シンガポールのISEAS(東南アジア研究所)が出したレポートの中で、「もし、どちらかに与くみしなければいけない場合、米国と中国のどちらを選ぶか」という設問に対して、2023年と2026年では大きな変化が起きている。
23年には約7割の国が米国支持だったのに対し、26年には半数以上が中国支持となった。
特に顕著なのがASEAN5と呼ばれる中心国で、5カ国のうち、米国支持なのはフィリピンだけ、ほかの4カ国は中国支持となった。インドネシア、マレーシアはイスラム教が多数派の国で、ガザやイランでの米国の行動を静かに注視している。
このような中、日本が取るべきエネルギー政策はどうあるべきか、あるいは東南アジアのダイナミズムとどう向き合うべきなのか。日本は今、重要なパラダイムの転換点に立っていることを認識する必要がある。
(2026年5月14日取材)

PROFILE
寺島 実郎
てらしま・じつろう
一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『世界認識の再構築 一七世紀オランダからの全体知』(2025年、岩波書店)、『21世紀未来圏 日本再生の構想──全体知と時代認識』(2024年、岩波書店)、『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』(2022年、NHK出版)など多数。メディア出演も多数。
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