末永く『良い北山川・熊野川』を保ち電力網を支える水力に進化を。

POWER PEOPLE

池原発電所・ダム(奈良県吉野郡下北山村)

紀伊半島中央を南へ下る熊野川流域は、急峻な地形と豊かな水量を活かした水力発電の好適地だ。その一方で風光明媚な観光地でもあるため、発電設備には利水と治水両面からきめ細かな対応が求められる。

その熊野川の支流・北山川にある池原発電所は今年、運転開始60周年を迎える。最大出力35万kWの大規模水力で、需要の少ない時間帯に下流の七色調整池から水を汲み上げて随時発電に再利用する揚水機能があるのも特長だ。

「私たち土木職の役目の一つは水力発電設備の保守管理だけでなく、流域全体の気象状況などを常時監視することです。特に台風が近づくと進路や降雨量などを予測し、事前放流により空き容量を確保、ダム放流量を低減して下流域への影響を最少限にとどめるよう最善の手段を講じます」

そう語るのは角野淳也さん。入社から17年の大半を水力部門で過ごしてきた。

「流域の皆さんの北山川・熊野川への愛着は格別で、まず地域の理解を得ることから仕事が始まると言っても過言ではありません。末永く『良い北山川・熊野川』を保とう――それが合言葉です」

そして今、次の50年を見据えて決意するのは、水力発電をより進化させ、脱炭素社会の実現にも貢献することだ。

「揚水発電が可能な当発電所は、すでに電力供給の調整役として機能しています。今後、再エネの構成比が増す中で効果的に運用し、電力安定供給に寄与していきます」

取材・文/内田 孝 写真/斎藤 泉

ダムの天端(手前側)と洪水吐(奥側)を分離して、ダム放流時の下流域への影響範囲を低減する工夫がなされている。
洪水吐の耐震裕度を高めるため、門柱に鉄筋を多数埋め込んでいる。
耐震裕度向上の進捗を精密にチェック。同様の工事は運転開始以降で初という。
ダム堤体は貯水量や季節変動で「たわみ」が生じるため、0.1mm精度で定期測定する。
流域3発電所の業務をカバーするには、土木担当者間の密な連携が欠かせない。

PROFILE

J-POWER西日本支店
北山川電力所
角野 淳也