内向きな日本の「新しい鎖国」と国際的接点の必要性
寺島 実郎
Global Headline
本誌「グローバルエッジ」の創刊から20年が過ぎたという。本誌は、J-POWERが民営化された2004年の翌年、2005年に創刊されたが、この誌名からは、当時世界的にグローバル化が進む中で、「これから世界に出ていこう」というJ-POWERの意気込みが改めて感じられる。
これに関連して日本が今直面している課題として、21世紀に入って25年近くが経ち、海外に出る日本人が急速に減ってきていることだ。
2024年は、訪日外国人数が3,687万人になったことが話題になったが、一方の日本人の海外出国者数は1,301万人と、2019年ピーク時の2,008万人を大きく下回った。パスポート保有率の減少も顕著で、昨年の数字は16.8%に留まり、2005年の26.9%から約10%減少した。これは約1,200万人の日本人がパスポートを保有しなくなったことを意味している。
海外出国者1,301万人の内訳を見ると、ハワイ、グアム、サイパンの合計が約93万人、韓国、香港、台湾の合計が約572万人で、出国者の約半数は東アジアを中心とした近場の国への訪問が占めていることがわかる。
さらに深刻なのは留学生や旅行者を含め、海外に出る若者が少なくなったことだ。私が世界各地を訪ねても日本人の若者と遭遇することがほとんどなくなった。
同様のことが新聞一般紙の海外特派員数についてもいえる。21世紀になって、新聞の発行部数が低迷する中、三大紙でも特派員数が半減しているといわれ、海外の情報のほとんどが通信社経由となってしまった。
つまり、円安で日本円の価値が低下したことも相まって、日本人が内向きになり、国際的な接点と、それによるグローバルな視点を失いつつあるといえる。
海外情報ならスマートフォンでいつでも見られると思うなら、大きな間違いだ。確かに現象を伝える情報は山ほど溢れているかもしれないが、その情報の背後にある大きな構造変化の把握や重要性のプライオリティの選別という点では限界がある。しかも、ネット情報の多くが自分の興味に引っ張られた偏(かたよ)りのある情報であることに注意しなければならない。
日本のグローバル化の現状はすでに「新しい鎖国」といっていいような状況であり、「グローバル化」という言葉が空虚なお題目になっているともいえる。
本当の世界を知るためには、まさにグローバルエッジ(国際的な接点)に立ち、主体的な問題意識を持って、自分の足で歩き回り、多くの人と対話し、本や資料を読み込んで、多層的な知と情報基盤を形成していく主体的努力が必要だ。
(2025年5月29日取材)

PROFILE
寺島 実郎
てらしま・じつろう
一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『21世紀未来圏 日本再生の構想──全体知と時代認識』(2024年、岩波書店)、『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』(2022年、NHK出版)、『人間と宗教あるいは日本人の心の基軸』(2021年、岩波書店)など多数。メディア出演も多数。
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