大学生向け 火力編@磯子ツアー レポート

エコ×エネ体験ツアー 火力編@磯子大学生ツアー プログラムアドバイザー

技術の粋を集めた発電所での発見

根岸線に乗るたびに、磯子駅付近から海の方向に見える巨大な建物が気になっていました。その壁にはJ POWERの文字が。発電所であることは想像できても、それが石炭火力発電所だとは思いもつきませんでした。まして、その内部を探訪する機会に恵まれるとは。

大学生・大学院生向けの三日間の研修のうち、ぼくは二日目から参加しました。二日目の発電所内体験ツアーは、水チーム、空気チーム、石炭チームの三班に分かれて実施されました。まず、作業着に着替え、安全ベルトを装着してゆくにつれ、緊張が高まります。学生諸君も、最初は頼りなげに見えましたが、だんだん様になってゆきました。ぼくは空気チームに参加。熱効率のよい燃焼を実現するための工夫に、全員が納得。当初、一般見学コースを歩いていたときは統制のとれていなかったチームも、作業現場に足を踏み入れると一変しました。発電所スタッフの実地体験に裏付けられた説明に真剣に聞き入ります。iPadに収められた発電所の図面などを確認し、ポイントで写真を撮りながら進みます。ツアーのクライマックスは、炉の中の炎観察。全員が代わるがわる、熱よけの保護面をかざして覗き窓を見入りました。

部屋に戻っての、各チームの報告会はそれぞれ個性的でした。今回の研修で初めて会った者同士とは、とても思えません。スタッフによる事前の講習も功を奏したのでしょう。三日目のワークショップのメインテーマは、今回の体験ツアーで気付いたことと自分の将来のビジョンを語り合うこと。ワークショップのチーム分けは、ファシリテーターが出す、一見取り留めなさそうな質問に答えていくうちに、似た者同士が見えてくるという仕掛け。似た者同士が寄り集まり、大きな夢、小さな夢、形をなしていない夢、さまざまな夢が語られました。それは、一人ひとりが自分自身を見つめなおす体験にも思えました。しかも、地球の環境を自分たちはどうしたいのかという重い問いを背負った上での。参加した学生諸君にとって、かけがえのない時間となったはずです。また、この企画に関わった発電所のスタッフにとっても。いわゆる一つ釜の飯を食った仲間の絆が結ばれてゆく過程に立ち会えたことは、ぼくにとっても貴重な体験でした。

筑波大学教授、日本サイエンスコミュニケーション協会会長代行
渡辺 政隆

プロフィール:渡辺 政隆(わたなべ まさたか)
筑波大学教授、日本サイエンスコミュニケーション協会会長代行

東京大学大学院修了。フリーのサイエンスライターとして活躍後、文部科学省科学技術政策研究所の上席研究官となり、サイエンスコミュニケーションの調査研究に従事。科学技術振興機構を経て、2012年より現職。2011年に日本サイエンスコミュニケーション協会を設立。著書『一粒の柿の種』(岩波書店)、『ダーウィンの夢』(光文社新書)、訳書『種の起源』(ダーウィン著、光文社)ほか、進化生物学、科学史の著訳書多数。