白川湖の水没林(山形県飯豊町)
小島 なお

「音のソノリティ」を詠む

湯の中の手のひら、湖底のシロヤナギそよげる白を覗きこむとき

歌人 小島 なお

こくん、こくん、こくん。ゆったりとした櫂(かい)を漕ぐ音。ひと搔きごとに、うるおいのある春の水音を立てながらカヌーが進む。

山形県飯豊町(いいでまち)にある白川湖。ここには1年のうち、春の2カ月間しか見られないめずらしい風景がある。3月下旬、春の訪れとともに大量の雪解け水が流れ込むことで、水位の上がった湖に木々が水没。満水の白川湖からシロヤナギが生える幻想的な水没林の風景に出合うことができる。早春は湖面から立つ霧の世界を、晩春からは若葉輝く新緑の世界を楽しめるという。

水の中を覗きこむ時、同じような風景にいつか出合ったような懐かしい気持ちがするのはなぜだろう。湯に沈めてふやけた自分の手のひらや、湖の底になびく葉裏の白さは、柔らかく揺たゆた蕩いながら私を誘う。

※「音のソノリティ」第1029回放映「白川湖の水没林」を観て詠んでいただいたものです。

3月下旬~4月中旬は湖畔の残雪や湖からの霧などで白に包まれる「白の水没林」、4月中旬~5月中旬はシロヤナギが芽吹き、濃い緑色が映える「緑の水没林」と呼ばれている。(写真:大野 弘一/アフロ)

PROFILE

こじま なお

東京都出身。2004年、角川短歌賞受賞。2007年、第一歌集『乱反射』により現代短歌新人賞、駿河梅花文学賞受賞。2020年4月、第三歌集『展開図』刊行。居合道三段。

音のソノリティ 世界でたった一つの音

J-POWER は、首都圏などで放送中のミニ枠テレビ番組「音のソノリティ~世界でたった一つの音~」を提供しています。「ソノリティ」とは、フランス語の音楽用語で「鳴り響き」の意味。日本の自然風景から、その場所でしか聞くことのできない音を紹介しています。

日本テレビ系列 毎週日曜日 20:54 ~ など /BS日テレ 毎週水曜日 22:27 ~ (再放送)