日本の「勝ち筋」を結束力でつかみ取ろう!
菅野 等 × 中空 麻奈

Global Vision

J-POWER社長
 

菅野 等

BNPパリバ証券株式会社
グローバルマーケット統括本部 副会長

中空 麻奈

過去30年、いつの間にか成長力とアニマルスピリッツを失ってしまった日本。
だが、未来を向き、自らの強みに眼を凝らせば、必ず見えてくる「勝ち筋」がある。
日本の成長可能性を信じる中空麻奈さんに、今を生きる元気をもらった。

チャンス到来か 日本経済に再び力を

菅野 日本銀行の利上げが見込まれていますね(※ 対談実施:2025年10月)。中空さんはクレジットストラテジストとして、投資や融資の判断に欠かせない企業の信用評価に長く携わってこられて、金融政策にも通じておられます。2025年5月には『金利上昇は日本のチャンス』(ビジネス社)という本をお出しになって、つい最近まで政府の経済財政諮問会議の民間議員もお務めになった。そういう立場からご覧になって、どのように見ておられますか。

中空 私自身は、政策金利は上げるべきだと思っています。ご存じのように、長いこと日本経済の力をおさえ込んできたデフレ経済からの脱却を目指し、2012年12月の第二次安倍政権の発足以降、大胆な金融緩和政策の下で超低金利の時代が続いてきました。ですが、ここ最近の物価上昇の状況と、大企業中心に高まる賃上げ機運を考えれば、金利を上げない理由はないように思います。実際、マイナス金利が解除された2024年3月以後、日銀は少しずつ政策金利を上げてきています。ただ新政権が発足したばかりなので、物価高対策などの経済政策がどう動いていくかをしばらく見守らないうちは、なかなか利上げには踏み切りにくい状況かもしれません。

菅野 日本経済がもう一度活力を取り戻すには、やはりデフレ克服は必須で、物価や賃金を少しでも早く上げて、政策金利も上げなくてはいけないということですね。しかし、それには物価と賃金、どちらを優先していくべきなのでしょう。

中空 そこは難しいところですね。あるべき論からすれば、物価を上げることが先かもしれません。ただし、賃上げがちゃんとそれに追いついていけるかどうかは、常に確認が必要です。また、物価上昇が、需要の増加によって起きているのかどうかの見極めも必要です。原因がそうであるならば景気の高まりが背景にあるので、健全なインフレといえますが、資材費や製造費などのコスト増によるものであるなら、需要が足りていないので脱デフレも進みません。今はこの状態でしょう。
その裏側には、30年も続いたデフレ経済の影響で、値上がりに対する強い拒否反応が、消費者の中に根づいてしまったこともあると思います。このデフレマインドの払拭がまず必要なことです。

菅野 確かに、モノの値段は安いほうがいいと思うのは当然で、物価高に苦しんでいる人も大勢います。

中空 私もこれは100円ショップで買うと決めている商品がありますし、日本のモノは安くても質が高いということもあります。それでも、少しずつ値段が上がり、給料が増えていくという状況に身を慣れさせていき、上がらないのが当然と思うノルム(規範)から徐々に解放されなくてはいけません。
なぜなら、物価が変わらなければ給料も変わらず、労働意欲が削がれ、経済活動全体からアニマルスピリッツ(野心的意欲)が失われていくからです。それが、日本の経済力と国際的プレゼンスを低下させてきたデフレ経済というものです。その背景には超低金利の長期化があったと私は思います。

取り戻したい企業のアニマルスピリッツ

菅野 「失われた30年」などとよくいわれますが、この間に我々産業界が、生産性を上げることに腐心する一方、そこで得た利益を十分に労働報酬に回してこなかった。その責任を指摘する声も聞こえてきます。

中空 大企業に限ってのことだとは思いますが、確かに内部留保を貯め込んで、従業員への分配が疎かになるなど、アニマルスピリッツをなくしたという批判は甘んじて受けるべきなのかもしれません。
一般的に、金融緩和策は景気回復のために打つもので、政策金利を下げるのも企業の設備投資につなげるためです。ところが、ほとんどゼロ金利で資金を調達できるチャンスが続いたにもかかわらず、積極的な投資で新たな成長の芽を育てようとする動きが企業に見られなかったように思います。
ただ、企業は基本的に利益を得るために活動しているわけですから、その見通しが立たなかったので設備投資をしたくてもできなかったと見ることもできます。この分野なら成長できると、経営者が確信を持つことができなかったのではないでしょうか。

菅野 企業努力で優れた製品を開発しても、価格競争の波に飲まれて成長戦略を見出すことができなかったものもありますね。太陽光パネルはその典型かもしれません。日本の太陽光パネル技術は、かつて国際競争の先頭を走り、2000年頃には生産量で世界シェア50%以上を握っていたのに、今では海外勢に取って代わられて1%にも満たない状況です(資源エネルギー庁調べ)。この間、海外勢との価格競争が激化して利益率が下がり、日本メーカーは相次いで市場から撤退しました。
東日本大震災で原子力発電所の事故が起きた後、2012年に再生可能エネルギー(以下、再エネ)のFIT(固定価格買取制度)が始まると一気に需要が増えて、国内の太陽光発電の導入容量は平地国土面積あたりで世界のトップ水準となりました。にもかかわらず、産業として育たなかった。なぜなのか。この業界に身を置きながら、よくわからないというのが正直なところです。

中空 太陽光パネルを日本経済の成長ドライバーにできなかったのは、企業だけに責任があるとはいえないと思います。国からのバックアップも足りなかったのではないでしょうか。
消費者の立場からすると、再エネ由来の電気を使うためのインセンティブに欠けていました。もちろん、気候変動の問題が深刻化し、CO2を減らさなければ地球の未来がない、だから再エネにシフトしていくという話はわかります。エネルギーの安全保障も考えて、多様な電源を組み合わせるエネルギーミックスが重要であることも納得できる。でも、どんな電源からつくられた電気なのかを国が示して消費者に選ばせる仕組みはなく、再エネ由来の電気料金がなぜ高いのか、それを使うと国民にどんなメリットやデメリットがあるのかもちゃんと伝わってきませんでした。それなら、消費者心理としては安いほうがいいと思うに決まっています。そもそも、CO2削減のために再エネを浸透させたいなら、それを使ったほうが得をする仕組みにしなくてはいけません。そうしてこそ、大きな需要の変化が生まれます。その仕組みづくりまで民間に委ねるのは無理があると私は思います。

菅野 リサイクル材についても、中空さんは同じような提言をされていますね。リサイクル材の価格をバージン材(新品)より安く設定しなければ市場は広がらないと。

中空 持続可能な経済の仕組みをつくるため、リサイクルやリユースを活用したサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行が必要だと言われています。日本は2000年時点で世界に先駆けてその方針を打ち出した国ですが、今はEU(欧州連合)が主導権を握ってルールづくりを進めているのが実情です。日本は世界に誇れる高水準のリサイクル技術を持っているのに、ビジネスで欧州勢に押されているのは非常に残念です。政府は2030年までに循環経済関連ビジネスの市場規模を現在の50兆円から80兆円にする目標を掲げているのだから、例えば、製造業者にリサイクル材の回収特権を与えてコスト意識を変えるとか、バージン材に課税してリサイクル材のほうが安くなるようにするなどの工夫があっていいと思うのです。

日本の「勝ち筋」を今こそ見出す時

菅野 中空さんはよく、日本の「勝ち筋」を見定めることが重要だとおっしゃっています。そこに重点的に資金を投入し、強い産業に育てるべきだと。そのとおりだと思うのですが、なかなかいい勝ち筋が見えません。

中空 自分たちの強みがどこにあるのか、日本中がわからなくなっていますね。この先10年、20年、私たちは何を食い扶持に生きていけばいいのか、それが見えてくれば大きく変わるはずです。

菅野 エネルギーの分野では、特に洋上風力が期待されていました。陸上風力より風が安定しており効率よく大量に発電することができ、周辺産業への経済波及効果も大きいです。世界有数の海洋国家である日本にとって、再エネ主力電源化の切り札です。当社も英国の洋上風力に出資しているので視察に行ったのですが、ヨーロッパの北海沿岸などでは、遠浅の海が果てしなく続き、風況にも恵まれているのと比べると、ポテンシャルもコストも欧州には負けるとしても、日本で再エネの量をしっかり増やすには、洋上風力が最も有望です。
ただし、設備の核となる風車をつくる国内メーカーが撤退してしまい、日本には1社も残っていません。太陽光パネルと同様、海外勢との価格競争などによる採算性の悪化が主な原因でしょう。

中空 収益が上がらなくなるとすぐ撤退という時代が続きましたから。つい最近も、日本を代表する大企業が洋上風力から撤退したというニュースは衝撃的でした。それだけ予見可能性が厳しくなっているのでしょう。ですが、望みがないわけではありませんよね。ペロブスカイト太陽電池はいかがですか。日本が発祥だと聞いていますが。

菅野 本誌前号のこのコーナーでペロブスカイトパネルの生みの親である宮坂力さんにお話を伺いましたが、「今回は負けられない」ということで一致しました。やはり中国の価格攻勢と開発の追い上げ、事業化のスピードは脅威ですが、自由に曲げられるフィルム型製品の優位性や特許、原料の調達力で、まだ日本にアドバンテージがあるそうです。

中空 特許といえば、GX(グリーントランスフォーメーション)関連技術の特許数で日本は世界最多という調査結果があります(特許庁調べ)。ペロブスカイトも含まれると思いますが、太陽光発電に加え水素技術、バッテリーなどの二次電池、建築物の省エネ技術などに日本の強みがあるといいます。
GXは化石燃料に依存した産業構造から脱却し、再エネ中心に動かす経済への転換を促すものですから、これからの世界に不可欠の取り組みです。こういう分野に目を向けて、一つでも二つでも勝ち筋を見つけ、そこに集中的に投資を進めれば、世界トップシェアの成長ドライバーが生まれる可能性はあると思います。

菅野 医療や介護・福祉の分野にもチャンスがあるかもしれませんね。これだけ高齢化が進んだ国は世界でも珍しいわけですから。

中空 そうですね。介護ロボットなどのHX(ヘルスケアトランスフォーメーション)にも勝ち筋があると私は思います。
それから、漫画やアニメなどのコンテンツビジネス。すでに世界中で人気を集めていますよね。サウジアラビアには世界初の壮大な「ドラゴンボール」のテーマパークができるそうです。ただ、なぜ日本にできないのかは疑問です。日本のコンテンツが秘める可能性は絶大だと思うのですが、産業としてきちんと収益が上がる構造になっているのでしょうか。

菅野 その点、韓国のほうが勝ち筋への認識があると著作にお書きになっていますね。

中空 以前、出張で韓国を訪ねた時、いろいろな世代の人に「韓国の強みは何ですか」と聞いて回ったところ、多くの人が「IT、半導体、コンテンツ」とわりとすぐに答えてくれました。ところが、日本に帰って同じ質問をしてみると、ほとんどの人が答えに窮してしまう。辛うじて捻り出されるのが「自動車、インバウンド観光、アニメ」。でも、自信がなさそうなんですね。それからです、私が日本の勝ち筋を意識するようになったのは。

経済成長と脱炭素 両立させる仕組みを

菅野 GXのお話が出ましたが、政府が発行するGX経済移行債についてはどのように見ていますか。企業による脱炭素の取り組みを国が支援するための仕組みということで、我々電力会社も投資対象となると同時に、一定の負担金などを通じて協力することになるのですが。

中空 現状、今ひとつ投資家の人気を集めていないのは残念ですね。金利の上乗せとか、CO2排出権の付与とか、もっと投資家が買いたくなるような仕掛けがあっていいと思います。先ほどのリサイクル材もそうですが、投資家に選んでもらうには、脱炭素やリサイクルに取り組むことで企業が儲かる、つまり投資が報われるという前提が必要です。

菅野 GX債による支援を受けるには「産業競争力、経済成長、排出削減のいずれにも貢献する」という条件がありますが、企業としてはこのバランスが難しい。経済成長と気候変動対策をどう両立させるのかですね。
別の例でいえば、経済・物価高対策のために政府が対応をしている電気・ガス料金への補助、ガソリン暫定税率の廃止などがありますが、こうした政策が国民に歓迎される背景には、エネルギー料金は安くなければならないという不文律があります。その一方、脱炭素のための技術開発にはお金がかかり、エネルギー価格に転嫁せざるを得ない部分があるのも事実です。その狭間にいる企業はどこにどれだけ投資すればよいのか、悩みどころです。

中空 だからこそ、脱炭素で儲かる仕組みが必要なのです。それを実現するのがGXの役割ですが、産業構造を根本から変えようとするわけですから、古い設備を新しいものに変えるのに費用がかかるのは当然のこと。それが価格に反映され、しばらくは物価上昇が続くでしょう。しかし、やがて効果が表れて物価も落ち着くはずです。
そう考えると、本来、エネルギー料金の調整などはしてはいけないことだと私は思っています。ただし、本当に困っている低所得者層に対しては支援が必要です。その見極めはデータを使って客観的に判断することです。マイナンバー制度はそういうことに活かせるはずだと思います。

菅野 少し視点は変わりますが、気候変動対策をめぐる先進国の役割と開発途上国への支援についても考えさせられます。2025年11月にブラジルのベレンで、COP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)が開かれますが、途上国の気候変動対策を後押しするために先進国が拠出する「気候資金」が焦点の一つとなる見込みです(※ 対談実施:2025年10月)。

中空 先進国はこれまで地球の資源を存分に使って発展してきたのですから、これから発展するという国や地域に同じ負担を求めるのは無理があると思います。やはりそこは線引きをして、先進国が得てきた利益で途上国を支える責任はあるでしょう。その時に、先進国の技術と知恵を結集して、例えば、CO2をまったく排出しないゼロエミッションの火力発電の先端技術を低コストで移転するといった方法もあると思います。

菅野 まったく出さないレベルにはまだ至りませんが、超高効率の石炭火力発電や、排出したCO2を回収するCCS(CO2回収・貯留)などの技術革新は進んでいます。そういった支援の実行には、排出国による国際協調も必要ですね。

中空 そう思います。それぞれの思惑があるのはわかりますが、地球規模で問題解決に当たる姿勢は欠かせません。そして、化石燃料を使うほうが利益を得られるなどという事態が続かないよう、気候変動対策に消極的な国にはペナルティを課す、積極的な国が経済的合理性を得るという仕組みづくりが重要です。

未来を見据えたエコシステム構築へ

菅野 そういうことをすべてひっくるめた上での、経済成長と気候変動対策の両立になるわけですね。

中空 二兎を追いましょう。そのためには、企業の予見可能性を高め、経営者の成長意欲を鼓舞するエコシステムの構築が急務です。

菅野 一刻も早く日本の勝ち筋を見つけるためにも、それが必要ですね。どうしたらいいのでしょうか。

中空 できることはたくさんあると思います。消費者が得をする工夫を考え、デフレマインドを捨て去ること。ゼロから何かを生み出すより、今あるものを改良する日本の得意技に勝機を見出すこと。ベンチャー支援の仕組みを変え、ユニコーン企業を育てること。賃金レベルを上げるため、働き方の自由裁量を高めると同時に、各人の成果に見合うような「働きに見合う報酬」を徹底すること。
そして何よりも、私たち自身が「日本はまだまだやれる!」と信じることを忘れてはいけません。

菅野 中空さんのご著書『金利上昇は日本のチャンス』の最後に書いておられます。「今こそ結束しよう」と。

中空 そうです。特に私を含む45歳以上65歳以下の人たちに頑張ってほしい。「失われた30年」の中心にいた我々が、このまま退場するわけにはいかないのです。

菅野 まさに私もその一人。シニア&ミドルパワーの見せどころですね。ありがとうございました。

(2025年10月29日実施)

構成・文/松岡 一郎(株式会社エスクリプト) 写真/竹見 脩吾

PROFILE

中空 麻奈(なかぞら・まな)

BNPパリバ証券株式会社グローバルマーケット統括本部 副会長、チーフクレジットストラテジスト/チーフESGストラテジスト。慶應義塾大学経済学部卒業。一橋大学大学院修士課程修了。野村総合研究所、野村アセットマネジメント、モルガン・スタンレー証券、JPモルガン証券を経て、2008年BNPパリバ証券のクレジット調査部長に。市場調査本部長、チーフクレジットアナリストなどを経て、2020年2月より現職。経済財政諮問会議議員、財政制度等審議会財政制度分科会起草委員、税制調査会委員、経済産業省サーキュラーパートナーズ委員、日本証券アナリスト協会理事、日本EU学会会員などの役職を歴任。近著に『金利上昇は日本のチャンス』(ビジネス社2025年)。