エコの町に追い風 日本最大級の洋上風力
〜福岡県北九州市と北九州響灘洋上ウインドファームを訪ねて〜
藤岡 陽子

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北九州市の若松区と戸畑区をつなぐ全長627mの若戸大橋。1962年に完成し、当時は東洋一の長さを誇った。

J-POWERを含む5社が出資した北九州響灘(ひびきなだ)洋上ウインドファームは福岡県北九州市にある。埋め立て地にリサイクル事業を誘致し、次世代エネルギーにも力を入れるエコの町を歩く。

小説家 藤岡 陽子/ 写真家 Jay Junko Yokoyama

北九州市のシンボル 洞海湾に架かる若戸大橋

北九州市の洞海湾のほとりに立ち、若松区と戸畑区をつなぐ若戸大橋を見上げた。青空にひと筋、定規で線を引いたように架かるこの橋は高度経済成長期の最中、1962年に完成した。橋ができるまで両区を行き来する手段は船しかなかったが、経済の発展とともに車を使う人が急増したことで、住民たちから建設を望む声が上がった。
橋のカラーは、鮮やかな赤。この赤にはエネルギー、情熱、使命という意味が込められている。
橋のたもとで海面を跳ねる強い光に見惚れていると、対岸から船がやってきた。洞海湾を渡る船は江戸時代からあったというが、令和のいまも若戸渡船として住民の足になっていた。

石炭と鉄で栄えた昔を伝える明治、大正時代の建造物

若松南海岸にある旧古河鉱業若松ビル。 石炭積み出し港として隆盛を極めた当時の姿が思い浮かぶ。
1899年に竣工された官営八幡製鐵所旧本事務所。
官営八幡製鐵所の東田第一高炉跡。周囲は史跡公園となっている。

遡ること130年以上、明治時代半ば、若松は筑豊炭田で産出された石炭の積み出し港として栄えた。 
その後も1901年には官営八幡製鐵所が操業するなどこの一帯は重工業で発展し、長い期間、日本の経済成長を支えてきた。
そのため市内を歩いていると、日本が富国強兵にまい進していた当時を伝える建造物に出合う。
八幡東区には青空を背景にそびえ立つ、官営八幡製鐵所の東田第一高炉跡があった。「1901」と掲げられたプレートは、高炉に火入れされた年を意味している。
そこからほど近い場所にある官営八幡製鐵所旧本事務所は、1899年に竣工した赤レンガの建物で、その優雅な姿は眺望スペースから見ることができる。
若松区の若松南海岸には今なお現役の旧古河鉱業若松ビルが立ち、大正建築らしい意匠を細部に残していた。
ただ、きらびやかな繁栄の陰で、公害に苦しめられた過去も忘れてはいけない。1960年代のこの地域の空はまっ黒で、海は工場廃水で黄色に変色していた。こうした公害環境に声を上げたのは地元の婦人会で、彼女らの訴えと働きかけを受け止めた企業や行政が、長い時間をかけ公害問題に一体になって取り組んだという歴史がこの町にはあった。

環境先進都市となってエコタウン事業を推進

1905年に建てられた石炭会館。
旧ごんぞう小屋。ごんぞうとは石炭を貯炭場に運んだり船積みをする作業員のこと。
北九州市エコタウンセンターの三根康子センター長。
エコタウンセンター内に展示された空き缶などのリサイクル資源。
ペットボトルをリサイクルしてつくられた製品。
埋め立て地につくられた響灘ビオトープ。
軍艦を沈めて防波堤とした響灘沈艦護岸。
洞海湾を渡る若戸渡船。

青い空と美しい海を取り戻した北九州市は1997年度、国からエコタウンの第1号に承認された。エコタウンは国内に26地域あるそうで、その事業内容を学ぶため「北九州市エコタウンセンター」を訪れることにした。
「エコタウン事業は廃棄物をリサイクルし、資源として活用させることが目的です。現在は27のリサイクル事業所が集まっていて、これは日本最大級の規模だと思います」
説明してくださったのは、センター長の三根康子さん。エコタウンセンターでは月曜日から土曜日まで、リサイクル工場やエネルギー施設の見学案内をしているという。
センター内にはリサイクル事業に関する展示物が多数あり、また、風力発電施設など次世代エネルギーについての紹介もされていた。エコと再生可能エネルギー。両方の視点から資源循環型社会について学ぶことができる。
「北九州市には、公害を克服した経験があります。その時の技術、人材、ノウハウを活かして環境問題に取り組んでいます」
リサイクル工場が建設された約30年前は「北九州市外からごみが持ち込まれることの不安感等から迷惑施設のように思われていた」と三根さん。「でもいまはリサイクル工場の順調な操業や見学を通じて市民の皆様の理解が進み、タウンセンターには県内外から年間約10万人の来場者が訪れます」と嬉しそうに語ってくださった。

人気のお土産ネジチョコ ユニークな大ヒット商品

2020年に始動した「ネジチョコラボラトリー」。企業や大学とコラボし、遊び心満載の製品が多数つくられている。

JR小倉駅のお土産売り場にあったボルトとナットのチョコレート。
なにこれ、おもしろい!
このユニークなチョコレートをつくっている会社が小倉南区にあると聞き、取材に出かけた。
「うちの会社はもともと通信事業を展開していたんです」
出迎えてくださったのは、オーエーセンター株式会社の坂山智哉さん。坂山さんにユニークなチョコづくりの背景を教えていただく。「ネジチョコをつくり始めたのは2016年からです。行政から、北九州市らしいお土産をつくれないかと相談を受け、近代製鉄の発祥の地であることもあって鉄をイメージできる商品を考えました」
社長の吉武太志さんが3Dプリンターを活用し発案したのだと、坂山さんが教えてくださる。 
吉武社長の発想は常に柔軟だ。
2003年にJR西小倉駅近くにある商業施設で携帯電話ショップを運営すると決まった時に、店舗にカフェを併設した。新規契約するお客さんの待ち時間が長く、待機中も楽しんでもらいたいと思ったからだ。
2005年にはスイーツ店「グラン ダ ジュール」の運営を始め、2020年にはチョコの製造を機械化する「ネジチョコラボラトリー」を立ち上げた。
工場で製造されるのはネジチョコ以外に、ロケット形や明太子形、洋式トイレ形などいろいろあり、その多くが地元の企業や大学からの要望で手がけた商品だという。
ネジチョコラボラトリーを案内してくださったフードサービス事業部の権田(ごんだ)梨世さんは、
「職場で好きな形のチョコの話をしている時、子どもに戻ったような気持ちになるんです」
と遊び心を持ちながら仕事をしていると話してくださった。
驚いたことに、坂山さんと権田さんがこちらの会社で働くきっかけになったのは、トライアスロンだ。吉武社長はノースナインという地域貢献のためのNPO法人の代表理事をしており、坂山さんとは関連イベントで知り合った。吉武社長が坂山さんをトライアスロンチームに誘い、権田さんともトライアスロン大会で出会った。
「トライアスロンをしていると、発想が柔軟になるんです」
泳いでいて足がつったり、自転車が壊れたり、レース中は様々なトラブルに見舞われる。そのつど迅速に対処し、競技を続ける精神力は、そのまま仕事にも生きていると坂山さんは微笑む。
チョコレートのボルトとナットは本物さながら、気持ちがいいくらいキュッと締まる。お土産に持ち帰ったネジチョコを高校3年生の息子に渡すと「わ、締まった! 本物みたい!」と顔をほころばせ、大好きなおもちゃで遊んでいた幼い頃のように目を輝かせていた。 
かつて日本の重工業をリードした鉄の町は、若い力を得て今もなお進化を続けている。でもその進化はただ国を富ませることではなく、人や環境を大切にする方へと向かっていた。
豊かさとは多くを持つことではなく、感じるもの。
満たされた気持ちになりながら、澄んだ青空と、白い風車が並ぶ美しい海に別れを告げた。


北九州ならではのお土産物として誕生したボルトとナットを模したチョコ。カラフルなパッケージが可愛い。
以前は手作業だったチョコづくりを機械化。現在は一日で3万個を製造できる。
型の作成に3Dプリンターを使うのでボルトの溝も再現できる。ナットと組み合わせると本物さながらキュッと締まる。
話を聞かせてくださった権田梨世さん(左)と坂山智哉さん。二人ともトライアスロンに挑むアスリート。

北九州の新しい風景 響灘の洋上風力発電所

響灘に建設された洋上風力の風車。北九州に新しい風を吹かす。愛称は北九州市民からの公募により「Wind KitaQ25」に決まった。

2011年、北九州市は「グリーンエネルギーポートひびき」という事業を立ち上げ、風力発電関連産業の総合拠点となる取り組みを開始した。その事業の一環として、若松区の響灘に洋上ウインドファームを誘致することを決めた。
J-POWERは2017年に北九州市が公募した共同事業体の事業者に選定され、同年「ひびきウインドエナジー株式会社」を九電みらいエナジー株式会社、株式会社北拓、西部ガス株式会社、株式会社クラフティア(旧株式会社九電工)とともに設立。2023年に洋上風力の建設工事をスタートさせた。
風の強い秋の日に、同社取締役建設所長の笠原覚さんから説明を受けながら、試運転中の洋上風車を見学させていただいた。
「風車は全部で25基あります。最大出力は22万kWで、現時点では国内最大級の洋上風力発電所です」
土台が黄色の風車が同社のものだと聞き、海に浮かぶ黄色に視線を向ける。白い風車は優雅で美しく、北九州の新しい風景を前に胸が高鳴った。
ここ若松地区には1989年までJ-POWERの石炭火力発電所があったが、現在は若松総合事業所・若松研究所として技術研修や開発を行う場所となっている。
「今回、洋上風力発電所の変電設備はJ-POWERの敷地内に設置しました。海底ケーブルを陸揚げする場所も石炭火力発電所の取水口を再利用でき、シンプルな工事で済んだのです」
と笠原所長から建設において地の利があったことを教えていただき、過去の研鑽がいまの事業につながっていることを実感する。
時代とともにエネルギーのあり方は変わっていく。だが過去に得た知見が現在に手渡されているのだと確信できる見学となった。


主な取材先・撮影地。
風車の直径は174mで、現時点で国内最大。
ひびきウインドエナジー株式会社笠原覚所長(左)と筆者。
ひびきウインドエナジー株式会社のネームプレート。
基礎構造「ジャケット」を海底に沈める作業。
風車部材置き場。SEP船(自己昇降式作業台船)が着岸している。
SEP船のクレーンで陸揚げされる風車のブレード。
風車のブレードを積み込む様子。
海上で風車タワー、ブレードを据え付けていく。
海上で風車タワー、ブレードを据え付けていく。
J-POWER若松総合事業所内に建設された変電所。海底ケーブルで送電された電力がここから供給される。


北九州響灘洋上ウインドファーム
事業会社:ひびきウインドエナジー株式会社
所在地:福岡県北九州市若松区沖
運転開始:2026年3月予定
最大出力:220,000kW(9,600kW×25基)

Focus on SCENE 海に突き出した海釣り桟橋

響灘(ひびきなだ)は、福岡県の北、山口県の西に位置する海域。日本有数の漁場であり、サバ、アジ、イワシ、フグなどの魚が水揚げされ、市民による趣味の釣りも盛んだ。漁業協同組合が管理する脇田(わいた)海釣り桟橋は、海岸線から約500m先まで遊歩道が延び、船に乗らずとも手軽に沖釣り気分を味わうことができる(有料)。ここではアオリイカやヒラマサが狙えるという。桟橋の先端には休憩所があり、その向こうの海域では風力発電の風車が風を受けて静かに回っていた。

文/豊岡 昭彦

写真 / Jay Junko Yokoyama

PROFILE

藤岡 陽子 ふじおか ようこ

報知新聞社に勤務した後、タンザニアに留学。帰国後、看護師資格を取得。2009年、『いつまでも白い羽根』で小説家に。2024年、『リラの花咲くけものみち』で吉川英治文学新人賞受賞。京都在住。最新刊は『春の星を一緒に』(小学館)。