新しい光で、安全で豊かな未来を
パイフォトニクス株式会社

匠の新世紀

パイフォトニクス株式会社
静岡県浜松市

クレーン下の危険ゾーンを表示するホロライトの表示例。光源から距離があってもくっきりとした模様が表示されるのが特長。

太陽光に似た平行な光を発出し、様々な模様を照射できるLEDライト。
工場での安全性を高め、夜のイベントを豊かにするこの画期的なライトについて聞いた。

本業ではないライトをつくってみたら

パイフォトニクス株式会社
代表取締役 池田 貴裕さん

パイフォトニクス株式会社は、LED(Light Emitting Diode、光る半導体)を用いて、太陽光のような平行な光線を照射できる小型ライト「ホロライト」を開発製造するスタートアップ企業だ。創業は2006年、今年20周年を迎える。工場での安全管理や建築物のライトアップなどに活用され、右肩上がりに売り上げを伸ばしている同社の代表取締役 池田貴裕さんにお話を聞いた。

「ホロライトをつくったきっかけは、知り合いからホログラム(3次元画像)用のライトをつくってくれないかと頼まれたことでした」

パイフォトニクスを起業はしたものの、起業目的だった顕微鏡ビジネスの立ち上げに時間を要するために、軽い気持ちで引き受けたという。当時、LEDは従来のものに比べ各段に明るくなっていた。市販のLEDを購入し、レンズを組み合わせて、正方形の光を平行に照射するライトを手づくりしてみた。山に向けて照射すると、約1km先まで強い光が届くので、これはおもしろいものができたと商品化を決意した。

「何に使えるのかはわからなかったのですが、このライトには無限の可能性があると思いました。そこで協力してくれる板金工場を探し、さらに浜松市の補助金ももらうことができたので、意外と早く商品化できました」

池田さんは2008年4月に、このライトを製品化し、そこからホロライトの未来が開けることになった。

ホロライトのサイズは3種類。
最初に手づくりしたホロライトの試作品。ほぼ平行光を発出し、約1km先にも強い光を届けることができた。
クレーン下の危険ゾーンを表示するホロライトの使用例。緑のドットの円形がホロライトの光(写真提供:パイフォトニクス)。

研究者から起業 経営者の道へ

雪が積もった東北自動車道で走行車線の区画線をホロライトで表示(写真提供:積水樹脂株式会社)。
細胞内の物性を測定する顕微鏡。

池田さんは和歌山県の生まれ。1994年に徳島大学工学部に新設された光応用工学科に入学、LEDなどを含む、当時最先端の光工学を学んだ。

「一期生で先輩がいなかったので、何でも自分で決められました。その自由な研究環境が、今の私の挑戦的な姿勢につながっています」

と池田さんは振り返る。

大学ではホログラフィー(3次元情報技術)を研究し、大学院卒業後は浜松ホトニクス株式会社に入社し、浜松市にやって来た。浜松ホトニクスは、半導体レーザー、光電子増倍管、X線管、分析用光源などの光関連分野で高い技術力を持つ企業で、ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんがニュートリノを観測した施設「カミオカンデ」で使用した光電子増倍管を製造した企業として有名だ。

池田さんは、同社の中央研究所に配属され、2004年に米国MIT(マサチューセッツ工科大学)に派遣、細胞を3次元で可視化する顕微鏡の研究に取り組んだ。

2006年に浜松ホトニクスへ復帰したが、同年4月に光産業創成大学院大学へ入学、10月には生物細胞を可視化・定量化する顕微鏡を開発する会社としてパイフォトニクスを設立した。当然のことながら、当初のビジネスプランにホロライトは含まれていなかった。

静岡銀行浜松営業部ライトアップ 花博仕様 作品名「多彩な花と七色の光」(写真提供:パイフォトニクス)。
波際を青く光らせる使用例。1日600Wで、コストは50円/時間ほど(写真提供:パイフォトニクス)。

展示会で出会った人々がニーズを教えてくれた

街路樹に集まるムクドリを光で追い払う実証実験。市松模様の光を高速で反転照射すると光の刺激でムクドリが逃げることが判明(写真提供:パイフォトニクス)。

ホロライトは、高輝度LEDと光学素子を組み合わせて平行な光を照射するLEDライトだ。その特長は3つある。

① LEDを使用しているため、電気代が安く、熱もほとんど発生しないこと

② 光が広がらないため遠距離でも強い光を届けることができること

③ 様々な色や明るさを表現できること

2008年、展示会に出品してみると、来場者から様々な意見をもらえた。ホロライトの使い道を探していた池田さんは、展示会が情報発信だけでなく、情報収集の場でもあることを知る。様々な展示会に出展し、来場者からニーズを聞き出し、そのニーズを実用化していった。

「降雪時の高速道路の区画線を示すライトとか、テレビのスタジオ用照明とか、様々なヒントをいただき、その人と共同開発して2年後に商品化みたいなことをずっとくり返しました」

そうした中でドット、ライン、リング、クロスなど、12の形状の光を照射する技術も生まれ、その特許を取得することもできた。

こうしてビジネスとして大きなボリュームになったのが以下の5つの分野だ。

① 「安全性向上」
工場内などで危険なゾーンを光で可視化し、安全性を向上

② 「演出・イベント」
イベントなどでのライトアップや演出

③ 「建築・装飾」
建築物の壁面照明や装飾

④ 「検査・実験」
金属面検査、フィルム検査、ウエハー検査、ガラス検査などの照明

⑤ 「鳥害対策」
チェッカーパターンの光の反転照射でムクドリ・カラスなどによる鳥害防止に効果

この中で現在、最も需要が大きいのが「安全性向上」だ。例えば、工場内を移動するクレーン下の立ち入り禁止ゾーンを光で表示することで、安全性を飛躍的に向上させるライト。

「工場では、不注意が命に関わることもあります。光で“立ち入り禁止”を見える化することで労働災害を防ぐことができます。安全は企業の利益を守るとともに、今や社会の基盤といってもいいでしょう」

この工場でのホロライトを活用した安全性向上の需要は、自動車工場や鉄鋼業界で採用が相次いでおり、同社の収益の基盤となっている。

さらに2022年からは、安全性向上を柱に海外にも本格的に進出。米国、メキシコ、韓国、インドネシアなどで50社を超えるユーザーを獲得し、海外売上比率は13%に達した。

ホロライトの世界進出で世界一のブランドに

池田さんは「今後10年で海外比率を50%にしたい」と語る。海外進出を急いでいる理由の1つはブランドを確立すること。実は同社の国際特許があるにもかかわらず、海外市場において、一部の製品の粗悪品が出始めていることが理由だ。特許訴訟するよりも、ブランドを確立してユーザーの第一選択肢になるほうが近道という判断だ。

さらに、毎年複数件の新製品を出しているのもユーザーの信頼を高めるために一役買っている。

「技術の進化を止めないことが信頼につながる。挑戦し続ける姿勢こそが企業の価値だと思っています」

池田さんの信条は「まず世の中に出してみる」ことだ。完璧を求めるより、まずはユーザーに見せてみることが大切だという。

「新しい技術は、最初は価値が伝わりにくい。でも発信を続ければ、いつか誰かのニーズと出合う。その瞬間に初めて価値が高まると考えています」

浜松市という「光の街」で育まれた技術は今、世界を目指している。

「光は、目に見えるエネルギーであり、人を導き、危険を防ぎ、感動を生み出す力がある。私たちは、その光の可能性を信じ、社会を照らし続けたい」

研究者としての探究心と、起業家としての行動力。その両輪で進む池田さんの挑戦は、これからも続いていく。

J-POWER新豊根発電所のクレーンにもホロライトを導入している(写真提供:パイフォトニクス)。

取材・文/豊岡 昭彦 写真/斎藤 泉

PROFILE

パイフォトニクス株式会社

2006年創業の光学機器メーカー。高い指向性と視認性を持つ光パターン形成LED照明「ホロライト」シリーズを開発・ 製造・販売。