世界情勢を冷静・冷徹に見極め これからの日本の戦略を考える
寺島 実郎
Global Headline
2026年の年頭にあたり、日本の課題と展望を確認するため、取り巻く世界情勢について整理しておきたい。
2025年1月に米国でトランプ第二期政権が発足したが、最大の懸案といわれた米中対立について、当初は中国に対し100%の追加関税をかけると息巻いたものの、米中首脳会談の結果、合計20%という拍子抜けするような結果に終わった。
わかったことは、トランプ政権は中国と対立するつもりはなく、民主主義の理念を守る意図もないということだ。米中が対峙する「新冷戦」とも言われたが、結局のところ、トランプ大統領にとって米中対立はディール(取り引き)中心の利害対立に過ぎないのだ。
この構図の中で皮肉にも中国を「大国」として持ち上げているのは米国自身だという見方も出ており、日本がまず理解すべき重要な視点だ。
高市首相の台湾有事をめぐる発言を機に悪化した日中関係についても「トランプ政権下で米国の参戦はないこと」が判明した。また、「台湾には米軍基地はなく、最も近いのは沖縄であること」、「1972年の日中共同声明で日本は台湾と断交し、台湾を国家承認していないこと」、「台湾独立というものが台湾の中でも必ずしも多数派ではないということ」を踏まえれば、どのような対応が適切かは自ずと見えてくるだろう。
また、在日米軍について言えば、仮に日本が外国から攻撃されても米国が直ちに軍事行動を起こす確証はない。「日本軍国主義の復活を防ぐための抑止」という「瓶のふた」論という視点があることを認識すべきで、中国が日米安保に強く反対しないのも、米中間でそういった共通の理解を持っているからである。
日本はこうした事実を冷静・冷徹に理解しながら、米中両国との適切な距離感を保つ必要がある。
米国がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)やWHO(世界保健機関)、パリ協定(気候変動対策の国際枠組み)など、様々な国際機関や枠組みから離脱していく中、東南アジア諸国や欧州は目の前の現実を冷徹に分析し、互いに目配せしながら、「新しい世界秩序」の形成に静かに動き始めている。
では、日本はどうするのか。
日米同盟を外交の基軸に掲げて、米国に追従するだけでは世界に取り残される。
米中対立の谷間に毅然(きぜん)と立ち、非核・平和、安全保障、エネルギー、環境問題などについて新しい秩序やルールを多国間で構築するような、アジアのリーダーとしての戦略と行動が求められている。その正念場に今あるのだということを認識する必要がある。
(2025年11月28日取材)

PROFILE
寺島 実郎
てらしま・じつろう
一般財団法人日本総合研究所会長、多摩大学学長。1947年、北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、三井物産株式会社入社。調査部、業務部を経て、ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。その後、米国三井物産ワシントン事務所所長、三井物産戦略研究所所長、三井物産常務執行役員を歴任。主な著書に『世界認識の再構築 一七世紀オランダからの全体知』(2025年、岩波書店)、『21世紀未来圏 日本再生の構想──全体知と時代認識』(2024年、岩波書店)、『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』(2022年、NHK出版)など多数。メディア出演も多数。
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