AI技術+人間らしさで画期的サービスを提供
綱川 明美

Rising Stars

訪日客向けの情報提供から行政サービス、銀行でも活用されている会話型AI。
その生みの親である綱川明美さんに開発のきっかけと経緯について聞いた。

取材・文/ひだい ますみ
写真/竹見 脩吾



会話型AI(チャットボット)開発・活用の第一人者として活躍する綱川明美さん。綱川さんが提供するのは、困った時に友人のように親身にサポートしてくれる多言語対応の会話型AI「Bebot(ビーボット)」だ。

2017年、成田国際空港に導入された「Bebot」は、世界で初めて国際空港に導入された会話型AIであり、緊急時対応の会話型AIとしても、世界に先駆けて運用されている。さらには、24時間稼働の接客窓口として広く活用されているという。

「もともと訪日外国人観光客に向けて『旅の穴場案内』を提供するつもりでした。しかし、私の想定とはまったく違う質問や相談が次々と寄せられました」

ユーザーが求めていたのは、旅行中に直面している困りごと、例えば日本語がわからないため、インターネットでテーマパークのチケットが取れない、複雑な地下鉄の乗り換え方を教えてほしいといった問題解決のための情報だった。

「お客様のニーズに合わせることが大切だと気づき、サービスの方向性を修正しました」

すると、問い合わせ数が予想を超え、とても人力だけでは対応しきれない状況になった。

「そのとき、会話型AIを活用した自動応答システムがあったらいいなと考えたのです」

ビジネスを始めた頃から現在に至るまで、優秀な人材を確保することが一番苦労するところだという綱川さん。知り合いの紹介で出会った技術者に相談し、自動応答化を果たした。

「当初、会話型AIに『人間らしさ』は求めていませんでした。質問への正しい答えがあればいいと思っていたのです」

しかし、システムに不具合が生じ、綱川さんが自ら会話型AIのふりをして対応をした際、不思議なことに、その時のユーザー満足度の方が高かった。

「分析の結果、『人間らしい会話』が重要だと気づきました。それ以来、会話型AIと人間によるモニタリングの両方を組み合わせています」

改良を加え、さあこれからビジネスを拡大という時、コロナ禍に見舞われた。旅行者向けの情報提供の需要は激減、綱川さんはビジネスの転換を迫られた。

「私はシングルマザーで、保育園の情報を求めていました。子育てに関する行政サービスの情報や手続きについて、いつでも問い合わせできる会話型AIがあれば便利だなと考えました」

そこで、行政向けの会話型AIを新たに開発。今では、数多くの自治体で活用されている。

「現在、スマートフォンなどの撮影可能なデバイスを利用して、建築物や車などの審査や検査、職人の高度な技を学びやすくする『BeTrained』など、人手不足解消や人材育成につながるサービスも展開しています」

数々のピンチをチャンスに変えてきた綱川さん。日本の未来を明るく照らす存在である。

成田国際空港に導入された会話型AI「Bebot」。多言語対応で、観光客の質問に答えてくれる。(写真提供:ビースポーク)
研修プラットフォーム「BeTrained」では、建設現場や日本庭園などで、熟練の職人の様子をスマートフォンなどで撮影。録画をもとに、生成AIを活用して多言語字幕と音声付きの研修動画を作成。写真は、伝統的な蛇籠(じゃかご)を製作している様子。(写真提供:ビースポーク)
丸太を梁や柱などに加工する「木とり」の作業の様子を撮影。(写真提供:ビースポーク)
新経済連盟主催の「JX LIVE!2023」で選考委員特別賞を受賞した時も子どもを同伴。(写真提供:ビースポーク)

PROFILE

綱川 明美
株式会社ビースポーク代表取締役社長

つながわ・あけみ
1987年、神奈川県生まれ。株式会社ビースポークの創業者・代表取締役社長。高校卒業後に渡米、カルフォルニア大学ロサンゼルス校国際開発部卒業。オーストラリアの投資銀行のマッコーリー・キャピタルにて機関投資家向け日本株のリサーチ・セールスに従事。日本株のトレーディング、海外企業の日本進出支援、日系金融機関の海外進出コンサルティング業務を担当。2015年に株式会社ビースポークを設立。多言語AI「Bebot」を開発。行政のデジタル化や会話型AIの第一人者として、国際会議にも多数出席する。